著:ベッツィ・クース
監修:タマラ・アンドレアス&コニレイ・アンドレアス
公認心理療法士(LCSW)である私は、この35年間、地域の摂食障害の専門家として、食にまつわるさまざまな問題を抱える何百人ものクライアントに接してきました。
私の経験上、食べ物(およびその他の依存症)をめぐる問題を抱えた人々は、深く矛盾した思いを抱えてセラピーを受けに来ます。
食べ物や他の依存物をコントロールしたいと切望しながらも、同時に深層レベルでの生存メカニズムの一環として、これらの依存物にしがみついていなければならない、
つまり、根底にある感情的なニーズを満たさなければならないという思いの両方を抱えています。
私が使う主な介入方法は、コア・トランスフォーメーションです。
この手法はさまざまな問題に対して有効で、クライアントが望ましくない行動を続ける必要がないように、ニーズが満たせるより良い他の方法を見つけるのに役立ちます。
ある減量問題を抱えたクライアントの例をご紹介しましょう。
目次
クライアントが抱えていた問題
ダイエットのためにセラピーを受けに来たスージー は60代の女性でした。「あらゆることを試してみたが、効果がまったくない」と彼女は言いました。
体重は理想より27キロオーバーしており、週1回の減量グループに参加し、栄養士の指導のもと食事管理を3ヶ月間続けてきたそうです。
決められた食事を摂り、定期的に運動もしていましたが、食べ物をコントロールできなくなる時がありました。
彼女は減量にまったく成功していませんでした。
スージーがすでに試していたこと
スージーは落ち込み、絶望感を抱いていました。
1週間に0.5~1キロほど体重が減ることはあっても、その後、減った分よりも体重が増えてしまうのです。
この数年の間に、彼女は異なる長期カウンセリングを4種類も受けたと言いました。
自分の過去について学び、自分が望まない食生活のパターンから抜け出せない理由を知りましたが、減量というゴールには近づくこともできませんでした。
セラピストからは抵抗的なクライアントと呼ばれ、目標達成を妨害しているのは自分自身だとも言われ、彼女は自分が人間としての失敗作であるような気分になっていました。
多大な努力を費やしてきたこともあり、落胆するのも無理はありませんでした。
最初のフレーミング
スージーは部屋に入るなり、ため息をつきながらこう言いました。
「これ以上頑張ることに意味があるのかしら」。
これだけ頑張っても結果が出ず、とても苦しい思いをしてきたのでしょうと私は共感しました。
人には誰にでも、望まない思考や感情、行動があります。
こうしたパターンや反応をまずは尊重し、それらが私たちのために何かをしようとしてくれていると認めることがとても大切です。
自分の最も好ましくない行動や反応にも、根底には必ず目的と肯定的意図があります。
私はスージーに、コア・トランスフォーメーションでは「パート(部分)」と呼ばれている、自分のそうした側面とうまくワークできるよう学ぶことが、とても役に立つことを説明しました。
私たちは、スージーがより良い方法で自分のニーズを満たし、減量の目標が達成できる別の選択肢を見つけ出すことに焦点を当てることで同意しました。
何が変化を妨げていたのか?
スージーによると、現在の友人関係や家族との関係において、自分は「相手のために存在し、相手のニーズを優先する」役割だと言いました。
仕事でいつも留守の父親、情緒不安定の母親という家族の中で育った彼女は、幼少期から常に家族の中の「しっかり者」的な存在でした。
弟の世話役となったのも、家族の中に自分の居場所があると感じるためでした。
そうした感情に対処する方法として、彼女は食べ物に頼るようになりました。
食べ物だけが、自分に与えてあげられる「安全」な方法だったのです。
どれほど変わろうと努力しても、このパターンは彼女の生涯を通じて続いていました。
スージーの変化へのモチベーション
私は日頃から、変化に挑戦する上でのモチベーションについてクライアントに尋ねています。
スージーが受話器を手に取り、「もう一度だけ」挑戦してみようとセラピーの予約を入れた原動力は何だったのでしょうか?
それは、いつも太っていることを批判してくる弟と休暇旅行の予定があり、その前に体重を減らしたいと願ったからでした。
弟との時間をビクビクして過ごすのではなく、姉弟関係を改善したかったのです。
そして、自分の肉体的、精神的な健康とウェルビーイングを実現したかったのです。
ワークするパートを選ぶ
スージーのモチベーションを知った私は彼女に尋ねました。
「旅行前に痩せたいと自分でもわかっているのであれば、そうすることからあなたを止めているのは何ですか?」
弟のためにすべてを犠牲にしてきたという恨みがましい思いがあるにもかかわらず、その怒りを表現する術がないと彼女は答えました。
彼女は怒りと憤りを食べることで押し殺していたのです。
「私はさまざまなことを諦めてきました。ですから、せめて食べたいものを好きなだけ食べる資格はあると思います」。
対立する思いを持つこれらのパートの存在が、私をコア・トランスフォーメーションの介入へと導いてくれました。
コア・トランスフォーメーションの考え方では、「抵抗」は存在せず、失敗したと感じる必要もありません。
食べたくないのに食べてしまう体験に関するものは、すべてプロセスに含めることができます。
この記事では、コア・トランスフォーメーションの完全なプロセスを伝えることはできませんが、スージーとのワークで、これがどのように展開していったのかを垣間見てもらえたらと思います。
コア・トランスフォーメーションの次のステップは、太りすぎの原因となっている内なる「パート」を見つけることです。
この後すぐに説明しますが、スージーが望む変化を起こす鍵となる、内なる「パート」がいくつか見つかっていきました。
スージーの反応を観察していた私は、この問題の最終的な解決への鍵となるであろう複数のパートが存在していることを知りました。
「感情的欲求を満たすために食べ物を食べる」パートについて彼女が言及したため、まずはこのパートからコア・トランスフォーメーションを始めることにしました。
コア・トランスフォーメーションのプロセスでは、私たちの内なるパートが望む深層でのゴールを明らかにするために、入念にデザインされた一連の質問を使います。
この一連の質問によって、感情的な欲求を満たすために彼女に食べ物を使わせていた内なるパートが望んでいたのは、「心地よさ」の感覚であることがわかりました。
心地よさの感覚を通して、彼女のこのパートは「受け入れられること、居場所を得ること」を求めていました。
これを通してパートが求めていたのは「安心」、そして「安心」が感じられることで、「深い平和」を彼女にもたらしていたのです。
この「深い平和」の感覚がリソースとなり、彼女のこのパートの体験は変容しました。
この時のセッションでは、スージーの問題に関連しているパートとのワークを1つしか行う時間がありませんでした。
問題に関連するパートはまだあることはわかっていたので、次のパートも変容できるようにスージーを手伝うことが楽しみでした。
このケースでは、何回かのセッションをおこなっていきました。内なるパートが変容していくたびに、次のパートを見つけ、変容させ、癒すことがどんどん容易になっていきます。
スージーとの2回目のセッションでは、食べたいという欲求が減り、1週間のうちで食べ過ぎてしまう回数も減らすことができたと報告してくれました。
しかし、体重はまだ減っていないとのことでした。私は彼女に、体重を維持しようとする原因は何だと思うかと尋ねました。
その瞬間、彼女ははっと気づいたように言いました。
「自分を守るため、そして自分らしく自由になるためだわ!」。妨害していたパートは、他者から頼られる存在でありたいというニーズを持つパートでした。
このパートが、コア・トランスフォーメーションの2回目のセッションの焦点となりました。
私たちはまず、彼女が自分のニーズよりも他者のニーズを優先しなければならないと感じた体験を導出することから始め、次にこのパートの深いニーズを明らかにしていきました。
このパートは、彼女が「責められることを避ける、受け入れられる」ように彼女を助けようとするパートであり、
そうすることで「居場所がある」と感じ、「愛と自己価値の感覚」がもたらされるようにしていたのです。
そしてこのパートの最も深いゴールは「平穏」でした。
このパターンは、彼女が4歳のときに作られたと彼女は気づきました。
そして「平穏」の感覚を4歳という年齢の体験に招き入れた時、彼女は深い癒しと変容の感覚を得たのです。
3回目のセッションで彼女が話してくれたのは、他者との交流において、以前よりも心を開くことができている感覚と、批判されることへの恐れが減ったことでした。
確実な進歩ではありましたが、まだ何かが彼女の過食を引き起こしていました。
私たちは、取り組むべきもう一つのパートを見つけました。
彼女には、ストレスがかかると自分に「私は何をやってもダメだ」と言う癖がありました。
それが実際に起こった最近の体験に彼女をガイドすると、そのパートは「受け入れられている感覚」を得ようとしていることがわかり、
それは「自分は大丈夫」という感覚を得るためであり、最終的には「平穏」がもたらされるのを望んでいることがわかりました。
スージーと私は、その後も何度かセッションを重ねていきました。
毎回私たちは、コア・トランスフォーメーションを使って他のパートとワークをし、そのたびにスージーのプロセスに対する経験値はより豊かに、より深くなっていき、変容も深まっていきました。
平穏という深いコア・ステートの体験があることで、彼女は望ましくない感情を手放し、新たな望ましい行動を生み出すことができるようになっていきました。
結果と進捗
最終セッションから1ヵ月後、私は電話で彼女の様子を確認しました。
スージーは弟と休暇旅行に出かけたと言い、そして弟との関係性がとてもポジティブなものになったと報告してくれました。
スージーは、初めて自分の思いを表現できるようになり、自分のニーズを満たす方法を見つけることができたと言いました。
また、他者と自信を持って話せるようになり、食べ物に対する選択肢が増え、体重はコンスタントに減っていると教えてくれました。
私たちは減量の問題に焦点を当ててコア・トランスフォーメーションのワークをしてきましたが、スージーが得たのはそれ以上のものでした。
彼女は、自分と他者との境界線をはっきりと区別できるようになり、自信を持って自分の気持ちが主張できるようになり、それでも「大丈夫」なのだと感じている自分を体験するようになっていました。
この新たな平穏とウェルビーイングの感覚から、スージーは自分が望んでいた行動変化を達成することができました。
食べることはもはや彼女の主要な対処戦略ではなくなり、体重は減少し続けていました。
人がその時に抱えている問題というのは、より深い変化と内なる癒しへの素晴らしい入り口となるのです。
よくあるパターン
人にはそれぞれ、ユニークな資質、強み、自己制限のパターンがあります。
同時に、過食の問題を抱える人たちとの関わりの中で、彼らに共通したテーマも見えてきました。
それは、人を喜ばせようとする世話役の役割を自分に課していることです。
私が関わってきたクライアントの多くは、幼い頃から家族の世話をすることで、自分のニーズが満たされることを学んできた人々でした。
そのため、自分自身の感情的欲求を満たすための最も安全な方法が食べ物となっていったのです。
大人になってからの人間関係も、これが基盤となっていきます。
自分のニーズを犠牲にしてでも他者のニーズを満たすことに一生懸命になるのです。
しかしながら、コア・トランスフォーメーションを主な変容の手法として用いる場合、クライアントの問題がその人の過去の何に起因していたかを知ることは重要ではありません。
根本的な原因を理解しなくても、必要な変化を起こすことができます。
なぜなら私たちは、クライアントの問題を今現在、引き起こしている「パート」を特定するからです。
しかし、癒しの変容の過程で、問題を形成した幼少期や過去の出来事が浮上してくることはよくあります。
そして、古いパターンが解放されるなかで問題の要因に気づけることは、クライアントに満足感をもたらします。
コア・トランスフォーメーションを使用することで、過去にどのような原因があったとしても、クライアントの減量問題を解決することができます。
筆者について
ベッツィ・クースは、40年にわたり公認心理療法士として、文字通り何千人もの人々、家族、カップルと接してきました。
そのキャリアを通して、彼女はコア・トランスフォーメーション、NLP、その他のツールを使ってきました。
そして、他のセラピーを受けても変化を感じることができなかったクライアントを助け、大きな成功を収めています。
彼女のクライアントたちは、やっと目標を達成できただけでなく、深いジェネラティブな変容が体験できたと報告しています。
タマラ・アンドレアスは、『コア・トランスフォーメーション:癒しと自己変革のための10のステップ』の共著者であり、あらゆるレベルでコア・トランスフォーメーションのトレーニングを教えています。
また、マーク・アンドレアスと共に、コア・トランスフォーメーション・コーチ認定トレーニングの講師としても活躍しています。
コニレイ・アンドレアスは、コア・トランスフォーメーションの開発者であり、『コア・トランスフォーメーション:癒しと自己変革のための10のステップ』の第一著者でもあります。
各筆者の貢献:
ベッツィ・クースはこのケーススタディの担当セラピストであり、本記事の初稿を執筆しました。
タマラ・アンドレアスと協力して初稿を記事としての文章に仕上げ、コニレイ・アンドレアスが最終的な編集を担当しました。
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