著:アンドリュー・T・オースティン
「MoM
(メタファー・オブ・ムーブメント)」とは、
メタファーを通じて
人の深層心理を分析し、
本人さえ気づいていない
心理状態を読み解くメソッドです。
そのため、
『悩みの"本質"を見抜いてしまう術』
このようにも言われています。
普段、人が何気なく使っている
メタファーに隠された
意味を理解することで、
自分や他人の本質や抱えている
問題を見抜き、
深い気づきを得ることができます。
自己や他者理解に役立ち、
特にコーチやセラピストなど、
人の成長と問題解決を
支援する方にとって
強力な武器となります。
MoMでは数十種類に分類された
メタファーそれぞれが、
その人が直面している問題の状態を
明確に表していると考えます。
あなたもMoMを学び、
様々なメタファーを知れば
深層心理のディープな世界に、
どっぷりとハマるかもしれません。
MoM事例:容器のメタファー「慢性的な鬱病」
この哀れな男性を見てください。
慢性的な鬱状態でアルコール中毒の男性が、セラピーを受けるために私の元にやってきました。
彼の外見も診断内容と一致しています。
昨夜の酒の臭いをプンプンさせ、服はだらしなく、髪はボサボサ、自分は本当に落ち込んでいる、まるで「絶望という穴にいるようだ」と私に言いました。
「絶望という穴」は容器のメタファーに分類されるものであり、双対の構造を持ちます。
つまり中に入っているか、入っていないかのどちらかということです。
絶望の穴が深刻な問題となるのは、中に入っている時だけであり、穴に入っていなければ問題ではなくなります。
巨大なバケツを想像してみてください。
あなたはバケツの中にいるか、バケツの中にいないかのどちらかです。
一部の切れ者達は、中でも外でもなく、バケツの縁に座って足をバケツの中に垂らしてぶらぶらさせることもできると言うでしょう。
この場合は、縁のメタファーという分類になり、今お話している容器のメタファーとは種類が異なります。
しかし、ふと疑問に思った人達のために、縁のメタファーとは移行期に伴う出来事を表しています。よろしいですか?
容器のメタファーには様々な種類があります。
一部の容器は、全包囲型の監獄や檻などの形を取ります。
かなり一般的に見られるメタファーです。
他には、一部に開口部のある容器もありますが、多くの場合、都合の良い形での開口部ではありません。
例えば「絶望の穴」は上部が開いています。
しかし、穴の底で身動きが取れなくなっているこの気の毒な男性にとって、唯一の出口である開口部があまりにも高い場所にあります。
深みにはまっているのです。どん底です。
容器のメタファーが表す実生活における影響
- どこにも行くことができず、閉じ込められている
- 他の誰からも切り離されている場合がある
- その人に関わっている人々は、その人との間にある障害物に対処するか、容器の中に一緒に入る必要がある
- 容器は外界から守ってくれる役目もあり、「安全な監獄」にもなり得る
この男性が体験しているだろうこと
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彼が精神科医にこうした自分の状態を報告すれば、医師は男性が鬱状態であると正確に診断するでしょう。
しかし医師が「鬱」というその言葉で意味することと、私が意味づけすることとは違うかもしれません。
さて、この男性の状況について、フォレンジック*的にはいくつかの事が推察できます。
【*Forensic:法廷での証拠や科学捜査で使えるほど正確で精密な】
容器のメタファーは典型的に、幼少期の体験や幼い頃に私たちの周囲に築かれた境界を具現化しています。
同時に、ステータスが守られていることを意味しています。
例えば、お母さんはあなたを「真綿で包み込んで(=過保護に育てて)」くれたかもしれません。
そして、お母さんはそのままのあなたが大好きなので、あなたがそのまま変化(成長)をしないように行動を取るかもしれません。
そして穴の中の男性に話は戻ります。
彼がどのようにしてそこに入ったのだろうかと考えることで、多少の経緯を検証することができます。
MoMを勉強中の人に最も多い答えは、「彼が自分で大きな穴を掘った」です。
しかし現実には、わざわざそのようなことをする人はまれです。
男性が直面している状況に対して、間違った判断となってしまう場合もあります。
解決の責任が本人にあるからと言って、問題を作り出した責任まで本人にあるとは限らないのです。
しかし、その男性が非常に分析的なタイプの人であったなら、その判断も正しいかもしれません。
つまり、何でも深く掘り下げることを好む人、物事の根底まで探らないと気が済まない人です。
可能性はありますが、そういう行動を取りがちな人でも"絶望の穴"は一般的によく起こる結果ではありません。
男性に、結果として何を望むのかと聞くことで原因が明らかになる場合もあります。
「この落ち込みの状態を根底まで探っていきたい」と答えたなら、自分で穴を掘ったという憶測が合っているのかもしれません。
しかし、普通はそのような答えは返ってきません。
分析的アプローチを使い、クライアントの精神世界の奥底へと考古学的発掘作業を始めるのは、通常、セラピストの方です。
クライアントではありません。
そしてセラピストは、いわゆる"治療"を続ければ続けるほど、
まるで劣化の一途をたどるように、クライアントがさらに深い鬱状態に落ちていくのは何故だろうと、哲学的に思索する羽目に陥るのです。
男性が私たちに、自分が願う「動きの方向」を訴えてくる可能性もあります。
これは、彼が最初に穴に落ちた時に、向かおうとしていた方向の延長だったりします。
例えば「人生を前に進めたい」などと言います。
彼が入っている穴をよく見てみると、周囲の壁は切り立ったものであり、かなりの落差があることがわかります。
前進している状態から、かなりの短時間で穴に落ちた状態に移行したことが想像できます。
ツルツル滑るスロープを降りてきたのでも、徐々に下降して行ったのでもなく、急激な転落だったはずです。
ここまでにわかること:
- この男性が絶望の穴に入ったのは、劇的で、突然の出来事だった
- それは、人生の幼少期に起こったこと
さて、さらに推察を進めていきましょう。
容器のメタファーはステータスの種類を伝えてくれます。
例えば、「まるで檻に閉じ込められているようだ」と表現するクライアントに檻の材質を聞くと、純金でできていると答える人が少なからずいます。
錆びた鉄で出来ている檻とは、かなり異なるステータスであることがわかります。
同時に、高低差としてメタファーに現れるステータスもあります。
例えば、想像上の台座に乗っている人を想像してみてください。
いくらか脆弱ではあるものの、社会的にも高い位置にいる人であることがわかります。
基本的に、上に昇るのは高いステータス、下に下がるのは低いステータスを示唆しています。
例えば:
- 出世の階段を上る
- 社会的地位の向上
- キャリアを昇っていく
- 最高の地位にある(勝者)
- 組織の頂点
- 落ちぶれていく
- 社会的地位が落ちる
- キャリアの階段を降りていく
- 最下位(負け犬)
- 組織の最下層
絶望の穴の男性の場合、「高度」を失っています。失ったどころか、地表よりもずっと下に落ちています。
ここまでにわかること:
- 男性が絶望の穴に入ったのは突然のことであり、劇的な急激な転落だった
- 男性の人生の早い時期に起こった
- 大規模なステータスの喪失に関係していた
このメタファーからは、彼が他者から隔絶されていて(穴の中には他に誰もいないため)、おそらく人間関係にも深刻な影響が出ていることが予想されます。
そしてその出来事以来、彼は、自分が願っているように人生を前に進められていない状況であることもわかります。
もしかしたら、手を差し伸べるのも難しい人なのかもしれません。
中には、彼に寄り添うために手を差し伸べた人もいたかもしれません。
しかし、おそらく彼は、そうした人々も自分と同じ穴の底のレベルまで引きずり下ろしただろうと考えられます。
この男性と付き合うためには、彼を見下し、見下げた話し方をするか、彼と同じレベルまで落ちている必要があります。
彼の体験の中では、彼を見下し、彼と同じレベルまで落ちていた酒飲み仲間に心の拠り所を求めたのでしょう。
さて、ここからは良いお知らせです。
私は、容器のメタファーは双対の構造を持つと前述しました。
MoMセラピーワークでは、この男性の苦しみが長く続いていたにも関わらず、この状況は実に迅速に変えることができます。
回復するための時間は、長くはかかりません。
なぜなら、彼を穴から出すための特別な方法がMoMには存在するからです。
治療は実に簡単なのです。
ただし、治療後の適応時間はある程度かかることが見込まれます。
なぜならこの男性は、今までとは全く異なる新たなメタファー環境に出ることになり、そこで新たな方向を見つけなければならないからです。
長い間、隔絶されてきたこともあり、ある程度、脆弱になっている可能性もあるでしょう。ここからが本当のセラピーワークです。
本当の現実世界で生きていくことを学ばなければならないのです。
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NLPトレーナー アンドリュー・T・オースティン (Andrew T.Austin) プロフィール
著者より許可をいただき掲載しています。
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