アンドリュー・T・オースティン著
あなたは、
世界が本当に、今まで以上に
「おかしくなっているのではないか」
と考えることはありますか?
あなたの見解は、十分な根拠に基づいていると思います。
実に馬鹿げていますが、私を信じてください。
パソコンやスマートフォンの電源を切って、そういうものを持たずに外へ飛び出してみると、狂気はまだマシなのではないかと思えます。
なぜか?それは「心理的社会伝染」が影響しているからです。
目次
身の回りに潜む「心理的社会伝染」とは
この言葉は、感情、行動、思い込みが、感染症が伝播するかのように集団の中で急速に広がる現象を指します。
ソーシャルメディアは間違いなく、この愚かさの広がる速度と届く範囲の両方に貢献しています。
社会的伝染のプロセスは無意識のうちに起こることが多く、人間は周りにいる人の感情や行動を自分に取り込む傾向があります。
「社会的伝染」という言葉は、フランスの社会学者ギュスターヴ・ル・ボンが、
集団行動とその根底にある心理メカニズムを考察し、まとめた代表作『群衆心理:大衆心理の研究』(1895年)の中で初めて使った造語です。
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「心理的社会伝染」が広まる要因
心理的社会伝染の蔓延には、いくつかの要因があると考えられます。
1.感情伝染:
これは、感情が個人間で自動的に、無意識的に伝達されることを意味します。
人は、自分と同じ社会環境にいる他者の感情に感化される傾向があり、それがドミノ効果を引き起こします。
例えば、集団内の一人が不安になったり怒ったりすると、他の人々も同じように感じ始める可能性が高くなります。
コンサート、暴動、抗議行動などの集団を見てください。規模は小さくても学校の教室でも同じです。
2.行動伝染:
感情伝染と同様に、社会集団の中では行動や習慣が行動伝染として広がります。
人は意識的に考えることなく、他者の行動を真似る傾向があります。
その結果、新しいトレンドやブームが急速に取り入れられたり、危機的状況下でのパニック買いのような有害行動にまで発展したりします。
2020年初頭のトイレットペーパー騒動を覚えていますよね。
3.認知伝染:
このタイプの伝染は、ソーシャルネットワークを通じて拡散される思い込みや信念、観念、情報全般が関連しています。
噂、陰謀論、フェイクニュースは、特に今のデジタル時代では瞬く間に広まります。
ソーシャルメディアというプラットフォームは、観念の迅速な普及と強化を促し、認知伝染を増幅させる強い力を持ちます。
「心理的社会伝染」を促進する要因
社会伝染を促進する可能性のある要因はいくつか考えられます。
1.社会的アイデンティティ:
人は自分の所属する社会集団のメンバーと同じ価値観、信念、行動を共有しているため、影響を受けやすくなります。
この帰属意識は順応性を助長し、社会伝染の可能性を高めます。
2.ソーシャルネットワーク:
ソーシャルネットワークの構造と密度は、伝染の広がりに影響を与えます。個人間の結びつきが強い密なネットワークでは、
観念や行動がグループ内で拡散されやすいため、伝染が急速に進みます。
3.感情の強さ:
恐怖や怒りなど、強い感情ほど急速に広まり、行動にも影響を及ぼす可能性が高くなります。
こうした感情は、危機的な状況下において人が自分自身や愛する人を守ろうとすることで、集団パニックや集団行動を引き起こす場合があります。
4.権威と信頼性:
人は、信頼できる、あるいは権威と認めた人の信条や行動を自分に取り入れる傾向があります。
有名人、政治家、専門家などが世論や社会行動に与える影響は多大であり、彼らによって社会伝染の蔓延が加速されます。
心理的社会伝染を理解することは、公衆衛生、危機管理、マーケティングなどさまざまな分野において極めて重要だと言えます。
社会伝染に関する研究から得られた洞察を活用することで、
政策立案者やマーケティング担当者は有害な伝染の悪影響を緩和させる、あるいは逆に利用することもできます。
また、ポジティブな行動や信念の定着を後押しするような戦略を立てることもできます。
しかしながら、主要メディアはソーシャルメディア上でのクリック数を稼ぐために、荒唐無稽な見出しで際限のない争いと恐怖を煽り、
それが与える悪影響を利用する傾向にあることは一目瞭然です(「フィアベイティング=恐怖扇動」)。
「心理的社会伝染」の具体例
社会伝染は、イギリスにおいてさまざまな出来事やトレンドに重要な役割を果たしてきました。以下はその具体例です。
1.2011年イギリス暴動:
2011年8月、マーク・ダガンがロンドンのトッテナムで警察に射殺された事件をきっかけに、イギリス全土の都市で暴動と市民の騒乱が発生しました。
この不穏な大規模市民騒動は社会伝染によって瞬く間に広がり、多くの人々が他者の行動に影響され、略奪、放火、暴力行為に参加していきました。
この大規模な騒動には、何かに対する抗議という要素が一切見られませんでした。
ソーシャルメディアの普及によって伝染効果がさらに増幅され、暴動のニュースがさらに多くの人々に行き渡ったため、国内各地で暴動への参加が促されました。
2.ALSアイス・バケツ・チャレンジ:
2014年、ALSアイス・バケツ・チャレンジは世界的な現象となり、イギリスだけでなく世界中の人々がこのチャリティ活動に参加しました。
参加者は筋萎縮性側索硬化症(ALS)の研究資金集めと認知度を高めるために、
バケツ一杯の氷水を頭からかぶる様子を撮影し、24時間以内に同じことを行う人を指名しました。
このチャレンジはソーシャルメディアを通じて急速に広まり、何百万もの人々がその行動を真似た、典型的な行動伝染の例となりました。
この行動によってALS研究の資金は集まったのですが、認知度向上に関して言えば、
この「チャレンジ」に参加した人にALSが何の略語なのかを、何かを調べずに回答できるか、次いでその症状の徴候や症状を説明できるか、ぜひ、聞いてみたいものです。
3.ブレグジット国民投票:
イギリスがEU離脱を決定した2016年のブレグジット国民投票もまた、社会伝染の影響を受けました。
ソーシャルネットワークやメディアチャンネルが発信する情報、意見、感情の拡散が世論の形成につながり、最終的には投票結果にまで影響しました。
賛成派、反対派の両方が議論や主張を広めるなかで、誤解を招くものや誤った情報も含みつつ、認知伝染が決定的な役割を果たしました。
4.反ワクチン運動:
予防接種の中でも、特にMMR(麻疹、おたふくかぜ、風疹)ワクチンに対する誤報と不信の広がりは、イギリスにおける認知伝染の一例と考えることができます。
現在では否定されていますが、1990年代後半から2000年代初頭に、
アンドリュー・ウェイクフィールド博士の研究によってMMRワクチンと自閉症が誤って関連づけられました。
この考えは否定されたものの、メディアを通じて急速に広まり、ワクチン接種率の低下と予防可能な病気の復活につながりました。
今日でさえ、人々はMMRワクチン接種によって自分の子どもが自閉症になるのを恐れ、
子どもを麻疹、おたふくかぜ、風疹といった恐ろしいリスクにさらす方を選んでいます。
5.COVID-19パンデミック時のパニック買い:
2020年初頭、新型コロナウイルス感染症が流行したことで、イギリスを始め、多くの国々でパニック買いが広まりました。
空っぽになったスーパーマーケットの棚や品不足のニュースを目の当たりにした人々が危機感を募らせ、
トイレットペーパー、手指消毒剤、食料品などの必需品をさらに買いだめするようになりました。
イギリスでは主にトイレットペーパーがターゲットとなりました。
こうした行動の伝染は、不確実な状況に直面し、恐怖と不安に駆られたた人々が自分自身と家族を守ろうとした結果でした。
社会伝染の医学的な例では、健康やウェルビーイングに関連する信念、行動、あるいは感情の拡散が一般的に伴います。以下はその具体例です。
1.集団心因性疾患(MPI):
集団ヒステリーとしても知られるMPIは、原因を特定できないまま、複数の人が同じような身体症状を経験する現象を指します。
これらの症状はストレスや不安によって引き起こされることが多く、社会伝染によって急速に拡散されます。
イギリスのブラックバーンにある学校で1965年に起こった有名な事件では、80人以上の生徒が失神、めまい、吐き気に襲われました。
児童達の間で瞬く間に症状が広がったため、この集団発生は不安と社会伝染が原因とされました。
2.神経性食欲不振症:
神経性食欲不振症(拒食症)などの摂食障害の拡散は、部分的に社会伝染に起因していると考えることができます。
社会的な美の基準が痩せていることであるため、脆弱な人々はこの理想を内面化し、不健康な食習慣や身体像などの問題を抱える場合があります。
メディア、広告、ソーシャルネットワークを通じてこうした理想像が広く拡散されることで、特定の人々の間で摂食障害が伝染することがあります。
インターネットが普及する以前、拒食症は各学校内で集中的に発生する傾向があり、
子どもたちは空腹になるための方法やテクニックを共有していました。
しかし、インターネット時代における情報発信の拡散的な性質によって拒食症の局所的な発症は減り、
以前は影響を受けていなかったコミュニティにまで急速に広がるようになりました。
3.自傷と自殺の伝染:
周囲の人々やメディア報道を通じて自傷や自殺の体験談に接することで、脆弱な人々がそうした行動に走るリスクが高まることが研究によって明らかになっています。
この現象は「ウェルテル効果」または自殺伝染と呼ばれ、自傷や自殺の集団発生、または「模倣」事件を引き起こすことがあります。
このような社会伝染の影響を緩和するためには、責任あるメディア報道と支援ネットワークが不可欠です。
インターネットが普及する前の時代では、意図的な自傷行為は拒食症と同様の分布パターンをたどっていました。
4.ノセボ効果:
ノセボ効果とは、治療や介入に対する否定的な期待が症状の悪化や有害な副作用の発生につながる現象です。
他者の経験や意見に基づき、医学的治療に対する否定的な思い込みを抱くことで、
報告される副作用の症例数が増加することから、社会伝染の一形態であると考えられます。
被験者の期待が結果に影響することもある臨床試験などでは、ノセボ効果が特に強い影響を与えることがあります。
5.ワクチン忌避:
先に述べた反ワクチン運動同様、ワクチン忌避とはワクチン接種が可能であるにもかかわらず、
自分自身や自分の子どもにワクチンを接種することに消極的であったり、拒絶したりするケースを指します。
こうしたワクチン接種に対する躊躇いは、
ワクチンに関する誤った情報や否定的な思い込みがソーシャルネットワークを通じて広まることによる、認知伝染の影響を受けている場合があります。
その結果として、ワクチン接種率の低下と予防可能な病気が流行する可能性があります。
ウェルテル効果とは
ウェルテル効果は「模倣自殺」現象とも呼ばれ、世間に大きく取り上げられた自殺や相次ぐ自殺報道に接した後に、模倣的自殺が起こることを指します。
この言葉は、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの小説『若きウェルテルの悩み』(1774年)で、主人公のウェルテルが自殺する物語に由来しています。
この小説の出版後、ヨーロッパ全土で自殺者が急増し、多くの犠牲者がウェルテルの手法や装いを真似したという報告がありました。
ウェルテル効果とは社会伝染の一種であり、ある個人の自殺やメディアにおける自殺描写が引き金となり、
特に脆弱な人々の間で模倣自殺が連鎖的に起こることを指します。
『イーストエンダーズ』はイギリスの長寿連続ドラマで、挑発的で物議を醸すテーマを多く取り上げてきました。
1986年に番組の中心人物の一人であるアンジー・ワッツ役のアニタ・ドブソンが、薬の過剰摂取で自殺を図りました。
この話題は、当時自殺というデリケートな問題に触れていたことからメディアの注目を集め、社会的な論争を巻き起こしました。
メディアでこうした描写がされることの懸念は、脆弱な人々への潜在的な影響でした。アンジーの行動を、
自分自身の感情的苦痛に対処する方法としてとらえ、自殺模倣やウェルテル効果が引き起こされる可能性がありました。
メディアによる特定の描写と現実世界における結果を直接結びつけるのは難しいことですが、
アンジー・ワッツの薬物過剰摂取というストーリー展開は、
メディアがメンタルヘルス問題と自己破壊的行動について責任を持って正確に表現する必要性を強調しました。
社会伝染やウェルテル効果が引き起こされる可能性が存在する事実は、
自殺や自傷行為のようなデリケートなテーマを取り上げる際に、メディアがガイドラインを遵守することの重要性を明確に示したのです。
ウェルテル効果の要因はいくつか考えられます。
1.同一視:
もともと脆弱で、自殺のリスクがある人は、自殺で亡くなった人と特に年齢、性別、あるいは社会経済的背景などの特徴が似ている場合、自分とその人とを同一視することがあります。
この同一視は連帯感につながり、自殺願望を増長させます。
2.自殺の美化:
自殺をロマンチックなものとして表現したり、美化したりするメディアの報道は、
自殺を苦しみからの逃避や注目を集める手段として表現し、軽率にも、人を魅了する物語を作り出してしまうことがあります。
このような描写は脆弱な人に自殺を実行可能な選択肢として考えるよう促す可能性があります。
3.暗示:
メディアや交友関係を通じて自殺行為に触れるだけで、影響を受けやすい人の心に自殺という考えを植え付けてしまいます。
その暗示が内面化され、自殺願望や自殺行為が引き起こされる可能性が高まります。
ウェルテル効果を軽減するために、メディアは責任を持って報道する必要があります。
世界保健機関(WHO)やその他の精神衛生組織は、記者やメディア関係者が慎重に、責任を持って自殺の報道ができるようにするためのガイドラインを定めました。
ガイドラインに示された主な勧告は以下の通りです。
1.具体的な詳細は避ける:
自殺の方法や場所について具体的な情報を提供することは、模倣につながる可能性がある。
メディアはこのような詳細情報を伝えることを避け、個人の死を取り巻く、より広範な問題に焦点を当てるべきである。
2.センセーショナリズムを控える:
ドラマチックな見出し、イメージ、または言葉遣いは、自殺を美化し、ウェルテル効果を助長する。
メディアは慎重に自殺を描写し、自殺を見せ物にすることを避けるべきである。
3.支援リソースの提供:
メンタルヘルス支援サービス、ヘルプライン、その他リソースの情報を提供することで、自殺念慮に苦しむ人が助けを求められるようになり、
さらなる自殺を防ぐことにつながる。
4.希望の物語を広める:
自殺願望やメンタルヘルス問題を克服した人の体験談の共有は希望の感覚を与え、同じような苦しみを抱える他者が助けを求めるよう促すことができる。
無視できないソーシャルメディアとの関係
ソーシャルメディアは、情報、観念、感情を幅広いオーディエンスに瞬時に拡散できるため、社会伝染を広める上で決定的な役割を果たします。
さまざまなソーシャルメディアのプラットフォームを介して人々の繋がりが増えるにつれて、社会伝染が広まる可能性も飛躍的に高まりました。
ソーシャルメディアが社会伝染を拡散させる主な方法は、次の通りです。
1.スピードとリーチ:
ソーシャルメディア・プラットフォームでは、ユーザーが即座にコンテンツを自身のネットワークに共有でき、
情報や感情をかつてないスピードで広めることが可能です。
この急速な拡散によって、観念、行動、信念が素早く普及し、社会伝染が増幅されます。
2.エコーチェンバー現象:
ソーシャルメディアのアルゴリズムは、ユーザーを、自身の既存の信念や関心に沿ったコンテンツに触れさせ、
エコーチェンバー(反響室)現象を作り出すことがよくあります。
こうしたエコーチェンバーは、認知伝染を強化する可能性があります。
なぜなら、人は自分の既存の信念と一致する考え方を取り入れる傾向があり、それがソーシャルネットワークによってさらに強化されるからです。
3.感情伝染:
ソーシャルメディアは、画像、映像、個人的なストーリーの共有を通じて、感情伝染の拡大を促します。
ユーザーはネットワーク上の他者の感情に感化されることがあり、恐怖、怒り、幸福感といった感情の拡散につながります。
4.バイラリティ:
強い感情を呼び起こすコンテンツの共有を促すのがソーシャルメディアの性質であり、特定の考え方や行動のバイラリティを助長します。
人は自分の感情に響くコンテンツを共有する傾向があり、このバイラリティによって社会伝染が急速に拡散される場合があります。
5.匿名性とオンライン脱抑制効果:
ソーシャルメディア・プラットフォームは、利用者に匿名の感覚を与えるため、オンライン脱抑制効果を引き起こすことがあります。
その結果、実生活では関わらないような考え方や行動を取り入れたり、広めたりしやすくなり、社会伝染をさらに促します。
6.インフルエンサー文化:
多くのフォロワーを持つソーシャルメディアのインフルエンサーは、社会伝染の拡大に大きな役割を果たすことがあります。
特定の考え方や行動、製品などを支持することでフォロワーに影響を与え、トレンドや信念を急速に普及させることができます。
経験から言うと、社会伝染には大きな問題があります。
ひとたび社会伝染に巻き込まれると、人はあらゆる理屈や道理を失います。騙されていることを理解させようとしても、彼らはあなたが愚か者だと思うので絶望的です。
彼らは伝染を支持する人々に囲まれており、その全員が、伝染がもたらす体験、信念、恐怖を強化し、保証してきます。
「ちょっと待った! これはただの狂気だ!」と勇気を持って発言した者は、
怒り、嘲笑、軽蔑の的となり、往々にして人格攻撃にさらされます(トランスジェンダーやニューロダイバーシティといったものの規模に疑問を持つ人に対して、ソーシャルメディア上で書かれていることを見ればわかるでしょう)。
個人的には、化学物質で調整された、最も多感な時期に手術で性器を切除した大勢の大人たちが、
いずれ大衆の社会伝染に巻き込まれていたことに気づき、政治の正しい美徳を求める人々の代償を払うことになるのではないかと危惧しています。
愚か者たちは、その愚かさに任せておきましょう。気候変動という緊急事態で我々が死に絶える前に、手遅れになる前に、そのスマートフォンを置いて外に出ましょう。
著者より許可をいただき掲載しています。
https://23nlpeople.com/psychological-social-contagions/
(C) 2023 Andrew T. Austin & The Fresh Brain Company Ltd
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