著:ロバート・ディルツ
ウェブスター辞典で「モデル」と調べると、
「複雑な実体や過程の簡略化された描写」と定義されており、例えば循環器系や呼吸器系を表現するための「計算モデル」などのような使われ方をします。
語源となったラテン語のmodusには、「行いや存在の様式、手法、形式、慣習、方法、流儀」などの意味があります。
さらに具体的には、model(モデル)はラテン語modulusから派生した言葉であり、元の形式の小型版を意味します。
例えば物体の「モデル」と言えば、通常はその物体のミニチュア版や模型のことを指し、
機械などの「ワーキングモデル」と言えば、その機械の機能や性能を小規模で行うことを可能にする何かを指します。
また現代では、例えば原子のように「直接観察することができない何かを可視化してくれる描写や類似」を意味するようにもなっています。
さらに、「実体や事象を形式的描写として提示する基本原理、データ、推論の体系」を表すために用いられることもあります。
よって、ミニチュアの電車、主要駅の場所を表した地図、電車の時刻表はどれも、鉄道システムの異なるモデルの例ということができます。
これらの目的は、実際の鉄道システムの一側面を模倣することで、そのシステムにおける相互作用をより良く管理できるように、有用な情報を提供することです。
例えばミニチュアの鉄道模型は、特定の物理的状況における車両の性能を査定するために使われるかもしれません。
主要駅の地図は、どこかの街に行くための最も効率的な旅程を計画する助けとなります。
時刻表は、電車で移動する際の所要時間を判断するために使うことができます。
こうした観点から、どのような種類のモデルだったとしても、その基本的な価値は利便性であると言うことができます。
目次
NLPにおけるモデリングの概要
行動モデリングには、
何らかの卓越したパフォーマンスの根底にある、成果につながる過程を観察し、マッピング(地図を描くように具体的に特定し描写)することが関わります。
複雑な事象や一連の事象を何らかの方法で再現できるように、十分に小さなチャンク(情報片)に切り崩していくプロセスでもあります。
行動モデリングを行う目的は、特定の行動の実践的なマップ、または「モデル」を作り出すことであり、
これを用いることで、そうしたいと願う人がそのパフォーマンスの一部側面を自分でも再現、または模倣できるようにすることです。
また、行動モデリングによって目指すゴールは、望ましい反応やアウトカムを作り出すために必要な思考と行動の主要素を特定することです。
純粋に相関的で統計的なデータを提供するのとは違い、特定の行動の「モデル」は、
実際に似たような結果を出すために必要なものが説明されていなければなりません。
神経言語プログラミング(NLP)の分野は、人間の行動と思考過程をモデリングすることで開発されてきました。
NLPモデリング・プロセスでは、言語バターン(神経言語プログラミングの「言語」の部分)と非言語のコミュニケーションを分析することで、
脳(「神経」の部分)がどのように機能しているかを特定していきます。
分析された結果は、他者や異なる状況にそのスキルが移行できるように、段階的なストラテジーや手順にまとめられます(神経言語プログラミングの「プログラミング」部分)。
実際、リチャード・バンドラーとジョン・グリンダーが
フリッツ・パールズ(ゲシュタルト療法の開発者)、バージニア・サティア(家族療法と全身療法の開発者)、
そしてミルトン・H・エリクソン(臨床催眠療法米国協会の創設者)の言語と行動のパターンをモデリングしたことからNLPは始まりました。
彼らのような卓越したセラピストの行動において、
グリンダーとバンドラーが観察した言語と非言語の主要パターンから、NLPの最初の「テクニック」は生まれました。
彼らの最初の書籍『The structure of magic(魔術の構造)』(1975年)の題名が示している通り、
説明不可能で魔法のように見える事柄にも深い構造があり、ここに光を当てることで、
最初に「魔術」を行った少数の並外れた「魔術師」以外の人々にも魔術を伝え、理解してもらい、実践できるようになるということです。
NLPとはつまり、こうした人々の行動における関連性の高い部分のみを紐解き、ワーキングモデルとして体系化した際に使ったプロセスなのです。
NLPが生み出してきたテクニックと識別法は、
人の言語と非言語のパターン、つまり人が言ったりやったりすることの最も重要な側面を明らかにし、描写することを可能としてきました。
NLPの基本的な目的は、特別な能力や並外れた才能をモデリングして、他者に移行できるよう助けることです。
そして、観察され、描写されたものによって、人々の生産性が上がり、人々に豊かさをもたらすような行動が生み出されていく助けとなることなのです。
NLPのモデリング・ツールは、有能なロールモデルの言語と行動から、再現可能で具体的なパターンを見つけ出すことを可能とします。
NLPに基づく分析の大部分は、実際に行動しているロールモデルを見て、聞くことで行われますが、記録された文書からも貴重な情報を収集することができます。
NLPモデリングは、特定個人の思考過程から、唯一正しい、本物の描写を作り出すことが目的ではなく、
モデリングしたストラテジーを有益に適用できるような手段的マップを作り出すことが目的です。
手段的マップとは、人がさらに効果的に行動できるように助けてくれるものです。
それがどれだけ正確なのか、事実に即しているのかは、その利便性と比べるとあまり重要ではありません。
そのため、個人や集団からモデリングされた行動や認知ストラテジーを道具として適用するのであれば、実践的な目的で使えるような構造にしなければなりません。
そしてその目的は、モデルとなった人が本来その行動やストラテジーを使った目的とは異なるかもしれませんし、同じかもしれません。
モデリングを適用できる一般的な例をいくつか挙げましょう。
1.
根底にあるプロセスへの「メタ認知」をさらに発達させることで、物事をより良く理解し、
それが教えられるようになったり、一種の「ベンチマーキング」として使えるようになったりする。
2.
何らかの活動に熟練した人や、その活動が最適に実行された事例で使われた手順を明確にすることで、
パフォーマンスを再現または改良(スポーツや管理業務などの状況において)する。
これが、組織におけるビジネス・プロセス・リエンジニアリング(業務の根本的革新)の本質である。
3.
特定の結果(有効なスペリングストラテジーの習得やフォビアやアレルギー治療など)を達成する。
こうしたケースは、一個人をモデリングするのではなく、複数の成功事例をモデリングすることで「テクニック」が開発される。
4.
異なる内容や状況に適用するために、プロセスを抽出したり、公式化したりする。
例えば、スポーツチームを管理するための効果的なストラテジーをビジネス管理に適用することもでき、逆もあり得る。
ひとつの研究領域(例えば物理学)における観察や分析ストラテジーを他の領域(例えば生物学)に適用することは、
ある意味、科学的手法が開発されてきたプロセスでもある。
5.
モデルの実際の手順を大まかに参照している何かからインスピレーションを得る。
その良い例であるアーサー・コナン・ドイル卿のシャーロック・ホームズは、
彼が通っていた医学校の教授であるジョゼフ・ベルが用いた診断法を参考に描かれている。
深層構造と表層構造
人の言語行動のモデルを作り出す手段として、NLPでは多くの原則や識別法を変形文法(ノーム・チョムスキー、1957、1965)から引用しています。
変形文法の重要な原則の1つに、目で見ることのできる具体的な行動、表現、反応は、
「深層構造」が現実へと表面化した結果の「表層構造」であるという考え方があります。
これもまた、人が脳と言語を使って作り出す世界モデルは、世界そのものではなくその表象であることのひとつの説明です。
変形文法の原則が示す重要な意味合いの1つは、いかなるコーディングシステムの構造や構成においても、
連続的に深くなっていく複数レベルの構造が存在するということです。
この考え方をモデリングに当てはめてみると、効果的なモデルを作り出すためには、
特定のパフォーマンスの裏側にあるさまざまなレベルの深層構造を探究する必要があることがわかります。
さらには、表層構造は異なっていても、同じ深層構造の投影である可能性もあります。
効果的なモデリングには、その表層構造を作り出している深層構造をより良く知り、特定するために、複数の表層構造の事例を検証することが重要です。
深層構造と表層構造の関係性はまた、「プロセス(過程)」と「プロダクト(生成物)」の違いとして考えることもできます。
プロダクトとは、その根源であり、あまり明白ではない深層における生成的プロセスが表層で表現されたものです。
つまり深層構造とは、一連の変容を経た結果として具体的な表層構造へと具現化された潜在力であると考えることができます。
この変容の過程で、データの選択的破壊だけでなく選択的構築も行われています。
この原則に基づいて考えると、深層構造から表層構造へと動く間に起こる一般化、削除、歪曲の過程が、
モデリングの根本的な課題の1つだと捉えることができます。
つまり深層構造から表層構造へと動く時に、一部の情報が必然的に失われるか歪曲されるということです。
例えば言語では、深層構造(人の神経系に貯蔵されている心象、音、感情やその他の知覚表象)から表層構造(一次的知覚体験を
描写または表象する時に選ぶ言葉、信号、シンボル)へと翻訳される時にこの過程が起こります。
いかなる口頭描写も、描写しようとしている観念を完全に、正確に描写することはできません。
深層構造の一側面が現実化されているのであれば、それはミッシングリンク(削除、歪曲、一般化)が十分に埋められたからであり、
深層レベルで潜在していた可能性が、表層構造で何らかの形として現出できるほどに一連の変容が完了できた時なのです。
モデリング・プロセスのゴールの1つは、深層構造の適切で有益な描写を得るために、
どのような一連の変容が行われたのかを、ある程度十分に特定することでもあります。
能力のモデリング
NLPモデリングの大部分は能力レベル、つまり「どのように」のレベルで行われます。
能力とは、その人の信念と価値観を特定の行動へと結びつけるものです。
「どのように」のレベル、つまり、やり方がわからないと、人は何をすべきなのか、なぜそうすべきなのかがわかっていても、有効な結果を出すことはできません。
能力とスキルは、人のビジョン、アイデンティティ、価値観と信念を特定の環境における行動として具現化するためのリンクと有利性を与えてくれます。
NLPモデリングが能力レベルに重点を置く傾向があるからといって、そのレベルの情報のみを考慮しているわけではありません。
望ましい能力を生み出すためには、多くの場合、信念、価値観、自己の感覚、そして具体的な行動のゲシュタルト全体が必須となります。
能力開発に焦点を置くことで、最も実用的で有用な深層構造と表層構造の組み合わせが生み出されるとNLPでは考えられています。
能力レベルは、具体的な作業や手順よりも深い構造にあることを念頭に置いておくことが重要です。
手順とは、特定作業を完遂へとつなげていく一連の動作や手段です。
しかし、スキルや能力というのは、その適用において、直線的にはつながらない「非線形」であることが多いのです。
特定のスキルや能力(例えば「クリエイティブに発想する」や「効果的にコミュニケーションする」など)は、数多くの異なる作業や状況で役に立ちます。
能力とはランダムアクセスが可能なものであり、特定の作業、状況、文脈で必要となった時に、
異なるタイミングで瞬時に呼び出すことができる異なるスキルだということです。
直線的なシーケンスである手順とは違い、スキルや能力はT.O.T.E.と呼ばれるシステムを中心に体系化されているのもそのためです。
T.O.T.E.とは、
①「ゴール」、
②「そのゴールを達成するために使う手段の選択」、
③「ゴールに向かっていることを評価するための証拠」
の3つを行き来するフィードバック・ループを指します。
特定のスキルやパフォーマンスを効果的にモデリングするためには、
そのスキルやパフォーマンスに関わるT.O.T.E.の次のような主要素を特定する必要があるとNLPでは考えます。
1.
パフォーマーが目指すゴール
2.
ゴール達成への進捗を知るためにパフォーマーが使う証拠と証拠の手順
3.
パフォーマーがゴールを達成するために使っている一連の選択肢と、
選択した内容を実行に移すために使っている具体的な行動
4.
初回でゴールが達成できなかった時のパフォーマーの対応方法
スキルと能力の複雑さのレベル
一口に能力と言っても、その種類によって異なる性質や複雑さのレベルがあることも覚えておきましょう。
複数のスキルや能力の組み合わせで成り立っているスキルや能力もあります。
例えば「本を執筆する」という能力は、語彙力、文法力、書いている言語によってはスペリング力、そして本の内容に関する知識力などの能力が関係してきます。
こうした構造をネステッドT.O.T.E.やサブ・ループなどと呼び、
より高度で複雑なスキルを構成するために組み合わさっている小規模なスキルをサブ・スキルと呼んだりします。
例えば「リーダーシップ」という能力は、効果的なコミュニケーション力、信頼関係を構築する能力、問題解決力、体系的に思考する能力など、
たくさんのサブ・スキルで構成されています。
よって、モデリングのプロセスも、スキルや能力の異なる複雑さのレベルに着目しなければなりません。
1.
単純な行動スキルは、短時間(秒単位、分単位)のうちに起こる具体的で明確、容易に観察できる動作が関わります。
単純な行動スキルの例として、
ダンスの動き、特別な精神状態(ステート)に入る、バスケットボールをシュートする、ライフルの照準合わせなどが挙げられます。
2.
単純な認知スキルは、短時間(秒単位、分単位)のうちに起こる具体的で容易に特定、検証することが可能な心理過程を言います。
単純な認知スキルの例として、人の名前やスペリング、単純な単語を覚える、頭の中で映像を作り出すことなどが挙げられます。
こうしたタイプの思考能力は、測定可能で、その場でフィードバックを提供してくれる、容易に観察可能な行動結果を生み出します。
3.
単純な言語スキルは、特定のキーワード、文節、質問などを認識、使用する能力です。
例えば、具体的な質問をする、キーワードを認識して反応する、重要な文節を思い出して「バックトラック」することなどが挙げられます。
こうしたスキルも、やはり容易に観察可能であり、測定可能です。
4.
複雑な行動スキル(または相互作用)は、単純な行動のシーケンスや組み合わせを構築したり、調整させる必要があります。
例えば、
ジャグリング、武術の技を学ぶ、スポーツ競技で技を繰り出す、プレゼンテーションを行う、映画や演劇で役を演じるなどが複雑な行動スキルの例です。
5.
複雑な認知スキルは、単純な思考スキルの統合や配列が必要です。
物語を作る、問題を診断する、代数の問題を解く、作曲する、モデリング・プロジェクトを計画するなどが、
複雑な認知スキルを必要とする例として挙げられます。
6.
複雑な言語スキルは、非常に動的(そして多くの場合、自然発生的)な状況において、
言語を相互作用的に使わなければならない状況が関わります。
例えば、説得、交渉、対話のリフレーミング、ユーモア、物語を話す、催眠誘導を行うなどでは、複雑な言語スキルが必要となります。
明らかに、どのスキルレベルでも1つ下のレベルで使われている能力、またはT.O.T.E.が包含され、組み入れられなければなりません。
よって、単純なスキルよりも複雑なスキルをモデリングするほうが難易度は高くなります。
複雑なタスクのモデリングに挑戦する前に、まずは単純な行動スキルや認知スキルのモデリングから学び始めるほうが簡単でしょう。
ただし、複雑なスキルも単純なスキルの集合体やシーケンスに「チャンクダウン」できることもあります。
モデリングの方法論
モデリング・プロセスの極めて重要な部分の1つが、モデリングの対象となる人(人々)から情報を集め、
彼らのT.O.T.E.における関連性の高い特質とパターンを特定するために、どの方法を使うかということです。
アンケートやインタビューなどの一般的な情報収集の方法は、一部の情報にアクセスすることはできても、
熟練した人間が無意識に、または直観的に行っている活動を特定するには不十分です。
また、コンテクスト(状況や文脈)に関する重要な情報が推定的であったり、削除されたりすることがあります。
アンケートやインタビューに加え、ロールプレイやシミュレーション、
モデリングしたいコンテクストで実際に活動している熟練者の観察など、より積極的な情報収集方法を取り入れることが有効であり、必要です。
NLPモデリングでもインタビューやアンケートを実施しますが、
NLPで最重要とされるモデリングの手法は、研究したいスキルまたはパフォーマンスが実行されている複数の事例に、
モデリング対象の人(人々)をインタラクティブに関与させる方法です。
こうすることで最高品質の情報を得ることができ、最も実践的なパターンを捉えることができます。
(画家が絵を描くとき、絵の対象を口頭で説明されるよりも、実際の生きたモデルを見せられるほうが望ましいのと同じ原理です。)
モデリングにおける3つの基本的な視点
モデリングでは、再現しようとしているプロセスや事象を2つ、または3つの視点から描写することが必要とされています。
NLPでは、情報収集と情報の解釈は、3つの基本的な「知覚位置」から行うことができると説明しています。
それが、
第1ポジション(自分自身の視点にアソシエイトしている)、
第2ポジション(相手の視点から状況を捉えている)、
そして第3ポジション(状況に無関係な観察者として状況を見ている)です。
効果的な行動モデリングを行うためには、これら3つの視点が不可欠です。
さらに、第4の知覚位置が存在します。
これは、システム全体、または状況に紐付く「相関的フィールド」から状況を捉える視点です。
NLPでは、「地図は領土ではない」、「人は誰でも、その状況の独自の地図を形成している」、
そして、「特定の体験や出来事に対する唯一の正しい地図は存在しない」ことを前提としているので、
複数の視点を取り入れることは、パフォーマンスや活動を効果的にモデリングするための必須スキルとして考えます。
複数の視点から状況や体験を捉えることで、その状況や体験に対する幅広い洞察と理解を得ることができるのです。
第1ポジションからのモデリングは、自分自身で何かを試してみることであり、
自分の視点から見え、聞こえ、感じられるものに基づいて自分のやり方を探究することです。
第2ポジションからのモデリングは、モデリングする相手の立場に立つことが必要であり、できる限り、相手のように考え、行動してみます。
こうすることで、モデリング対象者の、重大でありながらも無意識な思考や行動に関する洞察を得ることができます。
第3ポジションからのモデリングは、モデリング対象者が他者(自分も含め)と交流している場面を、一歩引いた、無関係な目撃者として観察します。
第3ポジションでは、個人的な判断は一時中断して、
科学者が望遠鏡や顕微鏡を通して何かの現象を客観的に考察するかのように、五感による知覚だけで物事に気づきます。
第4ポジションは、これらの視点すべての直観的な組み合わせのようなものであり、ゲシュタルト全般の感覚を得ようとします。
黙示的モデリングと明示的モデリング
熟練のパフォーマンスは、2つの基本的な側面の作用として説明することができます。
それが意識(理解)と能力(実行)です。
何らかの行為や活動について知っている、理解しているけれど、実行できない場合があります(意識的無能)。
また、何らかの行為や活動を巧みに実行することができるけれど、どのようにそれが実行できているのかを理解していない場合もあります(無意識的有能)。
スキルの熟練とは、「理解もできていて、実行もできる」ことと「実行していることを理解できている」能力の両方が必要なのです。
熟練者をモデリングする際の最大の課題は、彼らを卓越させる鍵となる重要な行動要素と心理的要素の大部分が、無意識かつ直観的に行われているという事実です。
その結果、卓越した能力を可能としている過程を彼ら自身もストレートに描写することができません。
実際、多くの熟練者は自分が何をやっていて、どのようにやっているのかについて考えることを、わざと避けたりもします。
自分の直観的な能力が阻害されることを恐れるからです。
これもまた、異なる知覚位置からモデリングすることが重要な理由です。
モデリングが目指すゴールの1つは、
人の無意識的有能を引き出して明確に特定し、意識に上らせることで、その能力をより良く理解し、強化し、他者へと移行できるようにすることです。
例えば、
「どの質問を使えばいいのかを知っている」、
「クリエイティブな提案を思いつく」、
「自分のリーダーシップ・スタイルの非言語的な側面を適合させる」といった
無意識のストラテジー、またはT.O.T.E.はモデリングすることが可能であり、意識的スキルまたは意識的能力として移行することができます。
認知能力と行動能力は明示的、あるいは黙示的にモデリングすることができます。
黙示的モデリングは、モデリング対象者の主観的体験に対する洞察を得るため、主にモデリング対象者の第2ポジションに入る方法を取ります。
明示的モデリングは、モデリング対象者の体験の明示的な構造を描写して他者に移行できるように第3ポジションに入ります。
黙示的モデリングは、自分を取り巻く周囲の世界におけるパターンを取り込み、認知する、主に帰納的なプロセスです。
明示的モデリングは、そうした認知を描写して実践へと移していく、本質的には演繹的なプロセスだと言えます。
どちらのプロセスも効果的なモデリングには必須です。
黙示的段階がなければ、明示的なモデルを作り出すための直観的で有効な土台が作れません。
NLP開発者の一人であるジョン・グリンダーが指摘した通り、「自分が直観を持ち合わせていない言語の文法を説明することは不可能」なのです。
一方で明示的段階がなければ、モデリングされた情報をテクニックやツールなどにまとめ、他者に移行することはできません。
実は、黙示的モデリングだけで、望む行動を無意識に有能な形で身につけることができます(幼い子供は、そのように周囲から学びます)。
しかし、個人レベルを超えて、他者に移行できるようなテクニックやプロセス、スキルセットを作り出すのであれば、ある程度の明示的モデリングが必要となります。
スペリングやゴルフのスウィングが上手になることと、自分が習得したことを他者にも教えられるようになることは別物なのです。
実際にNLPは、この黙示的モデリングと明示的モデリングの融合から生まれました。
リチャード・バンドラーは、
ビデオテープや直接体験を通してフリッツ・パールズとバージニア・サティアの言語スキルを直観的に、そして黙示的にモデリングしました。
そして、彼らと同じような質問や言語を使い、同様の治療結果を数多く出すことができるようになりました。
言語学者であったグリンダーは、ある日、バンドラーが人々とワークをしている姿を見て、言語の使い方だけで他者に影響を与えられるその能力に感銘を受けたと言います。
しかし、バンドラーが体系的に何かを行っていることは感じられたものの、グリンダーはそれを明確に特定することができませんでした。
そしてバンドラー自身も自分が何をしているのか、どのようにしているのかを明確に説明することができなかったのです。
わかっていたのは、ただ、パールズとサティアから何かを「モデリング」したことだけでした。
並外れたセラピスト達からバンドラーが黙示的にモデリングした能力をもっと明確に理解することに、二人は興味をそそられました。
その理解さえあれば、「意識的有能」として他者にその能力を移行できると考えたのです。
グリンダーはバンドラーに次のような提案をしました。
「君がやっていることを私にもできるように教えてくれれば、君が何をしているのかを私が君に教えよう」
グリンダーのこの歴史的な提案がNLPの始まりでした。
この時のグリンダーの言葉は、NLPモデリング・プロセスの真髄を捉えていると言えるでしょう。
「君がやっていることを私にもできるように教えてくれれば
(つまり、「君が持っている黙示的洞察力、または無意識的有能を私も習得できるよう助けてくれて、私も同様の結果を出せるようになれば」)、
君が何をしているのかを私が君に教えよう(つまり、「私たちが共に使っているパターンとプロセスを私が明示的に説明しよう」)」。
グリンダーは次のように言わなかったことに注目しましょう。
「君がやっていることを客観的に観察し、統計学的に分析させてくれれば、君が何をしているのかを私が君に教えよう」。
グリンダーは
「君がやっていることを私にもできるように教えてほしい」と言いました。
モデリングとは、体験に導かれることで得られる実践的で有用な直観によって可能となるのです。
グリンダーとバンドラーが共にメタモデル(1975)を開発するに至ったのは、次の要因が統合された結果でした。
1.
パールズとサティアの
言語能力に対する互いの直観力
2.
パールズとサティアのワークを
3.
直接(実際に、またはビデオテープを通して)観察できたこと
4.
グリンダーの体系的な
言語学知識(特に変形文法)
次にバンドラーとグリンダーは、同様のプロセスを適用してミルトン・H・エリクソンの催眠言語パターンをモデリングしました。
このときは、エリクソンの行動を黙示的にモデリングする最初の段階からグリンダーも参加していました。
以来、彼らを始めとする多くのNLP開発者たちが、
実質的に人間のあらゆる能力範囲における数え切れないストラテジーやテクニック、プロセスを、このモデリング・プロセスを使って創出していきました。
参考文献
NLPによるモデリング; Dilts, R., 1998.
ロバート・ディルツ氏より許可をいただき掲載しています。
http://www.nlpu.com/Articles/artic19.htm
著作権表示:This page, and all contents, are Copyright © 1998 by Robert Dilts., Santa Cruz, CA.
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