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2024.07.04 NLP世界権威

私たちの思考は「比喩」に現れる|メタファーの興味深い研究とは?

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アンドリュー・T・オースティン著

目次

    メタファーの興味深い考察をしたジョージ・レイコフ氏

    ジョージ・レイコフとは、言語と思考の複雑な関係を深く掘り下げる認知言語学の分野において著名な人物です。

    1941年に生まれたレイコフは、言語学、哲学、認知科学などさまざまな領域を探求する学問の旅路を歩みました。

    彼の研究は、言語がいかに人の思考を形成するか、また逆に、人の認知プロセスがいかに言語に影響を与えるかについての理解に大きな影響を与えています。

    レイコフの理論、特にメタファー(例え、比喩)に関する理論は、以下のように、とても画期的です。

    メタファーとは単なる言語表現ではなく、人の思考プロセスに深く根ざすものである

    人が周囲の世界をどのように認識し相互に作用するか、ということにおいて、メタファーは極めて重要な役割を果たしています。

    哲学者マーク・ジョンソンとの共著である『メタファに満ちた日常世界』(松柏社、2013年)は、彼の最も影響力のある著作のひとつです。

    独創性に富んだこの本において二人は、しばしば意識的に認識しない方法で行われるメタファーが、日常的な言語や思考にどのように浸透しているのかについて探究しました。

    レイコフは認知言語学のさまざまな側面を掘り下げていますが、この記事では「容器のメタファー」に関連する彼の研究に焦点を当てます。

    後の章で見ていきますが、この種のメタファーは、空間、実体、関係性に対する人の理解をどのように構成するかということにおいて深い意味を持っています。

    メタファーを理解すること

    メタファーは人の言語や思考に広く浸透しています。

    本来にメタファーとはある言葉やフレーズが、文字通りには当てはまらない対象や行為に適用される言葉の綾(比喩的表現)です。

    しかし、この基本的な定義を超えて、メタファーは、人の知覚、論理コミュニケーションを形作る強力な認識ツールとして機能します。

    従来、メタファーとは言語における単なる装飾的要素であり、詩的効果や修辞的効果のために使われる装飾と考えられてきました。

    しかし、レイコフの研究はこの考え方に異議を唱え、メタファーは人の思考プロセスの基本であると主張しました。

    それらは単なる言語表現ではなく、ある領域(起点領域)から別の領域(目標領域)への概念的なマッピングも表しています。

    例えば、「時は金なり」と言うとき、人は時間という概念(しばしば無形で抽象的)を、より具体的なお金という領域にマッピングしています

    このメタファーは人の時間に対する理解を形成し、時間とは「使う」「節約する」「浪費する」ことができる限られたリソースとして考えさせます。

    レイコフのメタファーへの探求は、メタファーが人の日常言語に深く埋め込まれていることを明らかにしました。

    「彼は状況の頂点にいる」(「彼は状況を把握している」ことを意味する慣用句)、

    「彼女はヒエラルキーの底辺にいる」といったフレーズは、抽象的な概念を伝えるために空間的な関係性を引き合いに出した比喩的な表現です。

    次章の焦点となる「容器のメタファー」の文脈では、空間的な関係性と境界が、さまざまな現象の概念化においていかに重要な役割を果たしているのかについて見ていきます。

    容器のメタファーの本質

    容器のメタファーは、レイコフが広範に渡って研究をした空間のメタファーの一種です。

    基本的に容器のメタファーとは、抽象的であれ具体的であれ、境界や制限の中に閉じ込められているかのような実体の概念化です。

    これらのメタファーは人の言語や思考に遍在しており、経験、感情、関係、さらには社会構造を描写するためによく使用されています。

    容器のメタファーの基本構造には、内側、外側、境界線の3つの要素が含まれます。

    例えば、人が「I'm in love(直訳:「恋に入っている」=「恋をしている」)」と言うとき、恋という感情は出入りができる空間として概念化されています。

    同様に、「彼は危機から出た(を脱した)」や「彼女は窮地に入っている(陥っている)」といった表現も、容器のメタファーを使って状況や状態を伝えています

    容器のメタファーに対するレイコフの関心は、それが認知科学にとって深い意味合いを持つことから生じています。

    容器のメタファーは、人の脳が体験をどのように自然に分類し構造化しているかを明らかにします。

    実体を内側と外側という観点で理解することで、人は複雑な現象を単純化し、より理解しやすくすることができるのです。

    さらに、容器のメタファーは多くの文化的、社会的な意味合いを持ちます

    例えば、「箱の中にいる」対「箱の外から考える」という考え方は、空間的な関係だけでなく、社会的な規範や期待も伝えています。

    つまり、「箱の中」は既成概念に固執し、「箱の外」は革新的、あるいは型破りとみなされます。

    要約すると、固有の空間的論理を持つ容器のメタファーは、世界に対する人の理解を形成する上で極めて重要な役割を果たします

    構造化された枠組みを提供することで、抽象的な観念をより具体的で親しみやすいものにし、複雑な概念をうまく切り抜けることを可能にします。

    容器のメタファーの適用と意味合い

    容器のメタファーは、その固有の空間的論理から、人間の体験のさまざまな領域に適用されています。

    日常会話から文学書まで、科学的な言説から政治的な美辞麗句まで、これらのメタファーは使用される文脈を形成し、文脈によって形成されます。

    下記にて、それぞれ解説していきます。

    日常言語:

    日常的なやりとりの中で、容器のメタファーは感情、在り方、体験を明確に表現するのに役立ちます。

    「感情を抑える」、「仕事に没頭する」、「快適ゾーンから踏み出る」といった表現は、その典型的な例です。

    これらの表現は空間的な枠組みを提供し、抽象的な概念をより具体的で体験に紐付けやすいものにします。

    文学:

    豊かな比喩的表現で知られる文学書でも、深い意味を伝えるために容器のメタファーが頻繁に用いられています。

    「過去に囚われた」登場人物や「伝統に閉ざされた」社会は、閉塞や境界線、内と外の間の緊張を伝えるメタファーです。

    科学と哲学:

    正確さと明瞭さを追求する領域でさえ、容器のメタファーが役割を果たします。

    哲学者は「知識の限界」について討論し、科学者は「生命の基本的なビルディング・ブロック(構成要素)としての細胞」を議論することで、複雑な存在を定義可能な限界内に閉じ込めています

    政治と社会:

    政治的言説には容器のメタファーがあふれています。

    国家という存在そのものが、保護が必要な「境界(国境)」を持つ容器として概念化されます。

    そして、社会的文脈における「包括的」「排他的」についての議論もまた、容器のメタファーの論理から引き出されています。

    容器のメタファーを使うことには深い意味があります。人の理解を単純化し、構造化する一方で、制限をかけ、抑制することもできます。

    境界線を決めることで、意図しない分裂や二項対立を生み出してしまうこともあります。

    こうしたメタファーが持つ力と制限を認識することは不可欠であり、抑制するための道具ではなく、明確にするための道具として機能させる必要があります。

    批判とさらなる発展

    容器のメタファーに関するジョージ・レイコフの研究は、影響力があり画期的である一方で、批判がないわけではありませんでした。

    どんな先駆的な研究もそうであるように、レイコフの研究は認知言語学の分野で討論や議論を巻き起こし、さらなる研究を誘発していきました。

    レイコフの研究に対する批判:

    言語学者や認知科学者の中には、思考の形成にメタファーが一役立っているとはいえ、レイコフが示唆するほど中心的なものではないと主張する者もいます。

    彼らは、メタファーが多くの認知ツールのひとつに過ぎず、その影響力は文化や言語によって異なる場合があると主張しています。

    逆に、一部のメタファーが普遍的であることについても議論されています。

    容器のメタファーは多くの言語に普及していますが、そのニュアンスや適用は文化的・社会的文脈によって異なる場合もあります。

    さらなる発展:

    レイコフの最初の研究以来、認知言語学の分野は拡大し、新たに生み出されるメタファーの微妙なニュアンスも理解されるようになってきました。

    研究者たちは、言語、文化、認知間の相互作用をさらに深く掘り下げて探求するようになりました。

    また、技術の進歩、社会の変化、グローバリゼーションの影響を受けることで、メタファーが時間とともにどのように進化していくかに関心が高まっています。

    例えば、デジタル時代に入ったことで、インターネット、コンピューティング、バーチャルリアリティに関連する新しいメタファーが数多く生まれています。

    レイコフの研究の遺産:

    批判にさらされながらも、容器のメタファーとメタファー全般に関するレイコフの研究は、認知言語学に消えることのない足跡を残しました。

    レイコフの研究により、単なるコミュニケーションツールとみなされてきた言語は、人の認知という世界を覗き込むことができる窓のようなものとして理解されるようになりました。

    彼の理論は学際的研究への道を開き、言語学、心理学、哲学、さらには神経科学の分野を隔てていたギャップを埋めていったのです。

    容器のメタファーに関するレイコフの理論は、称賛も批判もされてきましたが、言語と思考の複雑な関係に対する私たちの理解を豊かにしてくれたことは間違いありません。

    今後も続く研究の中で、メタファーに対する私たちの理解と、認知におけるその役割への理解がどのように深まっていくのか、非常に興味深いところです。

    著者 アンドリュー・T・オースティン

    アンドリュー・T・オースティンは「眼球運動統合セラピー(IEMT)」と「メタファー・オブ・ムーブメント(MoM)」の開発者。

    執筆家、セラピスト、トレーナーとして、感情的・精神的健康に関するさまざまなテーマで講演を行っている。

    メンタルヘルスや自己啓発の「業界」に対する批評家としても知られ、

    いわゆる「専門家」たちの間に蔓延しているカルト的な人格崇拝やハイステータス・ゲームを公然と批判することでも有名である。

    言うまでもなく、彼らにはあまり好かれていない。

    著者より許可をいただき掲載しています。

    https://metaphorsofmovement.co.uk/george-lakoff/
    © 2024 Andrew T. Austin and The Fresh Brain Company Ltd

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