ユングが提唱した無意識として有名なのが
「集合的無意識」です。
集合的無意識とは時代、人種を超えて
人間に共通する無意識のことで
言い換えるならば
人類には生まれながらに、
共通した心の土台があるということです。
今回はユングが提唱した無意識である
「集合的無意識」について、
そしてユングが作り上げた
分析心理学についても
わかりやすくご説明していきます。
自分らしい自分になるための心理学
という側面を持つ分析心理学。
ライフスタイルや価値観と、
さまざまなものが多様化された
現代に生きる私たちにこそ
必要な心理学かもしれません。
今回ご紹介する内容が、
あなたの人生において
ヒントになることがあれば幸いです。
目次
1.ユングの提唱した無意識とは
スイス出身の精神科医で心理学者、そして分析心理学の創始者あるカール・グスタフ・ユングは、
私たちが意識できない心の領域、無意識には集合的無意識と個人的無意識があると提唱しました。
この章では2つの無意識についてお伝えしていきます。
1-1.集合的無意識と個人的無意識
私たちの心は自分が意識できている領域と、意識することができない無意識と呼ばれる領域があります。
ユングは、この無意識には2つの種類があると考えました。
集合的無意識
集合的無意識とは、無意識(潜在意識)の中の、さらに深い所に存在する人種、国籍、時代にかかわらず、人類に共通して備わっている無意識のことを指し、
私たちの「イメージ」や「寝る時に見る夢」を作り出す感性ともいわれております。
例えば、緑生い茂る自然に安らぎを覚えたり、丸みを帯びたものに母性を感じたりと、
誰からも教えられたわけではないのに生まれつき備わっている感性が集合的無意識にあたります。
他にも、集合的無意識によって作り出されるイメージは様々ありますが、大昔より伝わる神話にもその影響が強く現れています。
これらの神話は、何千年も前の人類が作った物語なのに、現代の私たちが読んでも、なんとなく理解することができます。
また、世界各地の神話で太陽崇拝があることから、国、地域を超えて太陽に対して太古の人々は畏敬のイメージを抱いていることがわかります。
このように、誰から教わるわけでも、体験したことでもないのに、自然と共通のイメージを持つことができるのは、
集合的無意識が存在しているからであり、それにより私たちは年代、国境を超えて様々な人とコミュニケーションを取ることができるとユングは考えたのです。
個人的無意識
そしてユングは、集合的無意識に対して、個人の経験や体験によって作られる無意識を個人的無意識と表現しました。
もともと意識の中にあったが忘れられてしまったものや、意識から抑圧されたものなどが、
この個人的無意識にあたり、一般的に私たちが無意識と読んでいるものになります。
例えば、昔、犬に噛まれた経験のある人はその経験が個人的無意識に刻まれ、今も自然と犬を避けたり、犬を見ると恐怖心を感じたりします。
一方で、犬を全く怖がらず可愛がる人もいるもの。
このように個人的無意識とは人それぞれ異なるのです。
ユングはこの集合的無意識と個人的無意識、この2種類によって、私達の無意識は形成される、と唱えました。
それまでの心理学の世界では、人間の行動や思考のほとんどを占めている「無意識」とは、
個人の経験や体験のみによって作られる、いわゆる個人的無意識のみと考えられていました。
そのため「人類には共通した無意識が存在する」というユングの発見は大きな衝撃を与えましたのです。
そもそも「無意識」とは何かについては、以下の記事で詳しくご紹介しています。
→ 無意識とは?無意識に秘められた偉大な力と活用法3選
1-2.ユングが集合的無意識を見つけるまで
ユングが集合的無意識の存在に気づいたのは、統合失調症の患者がきっかけでした。
ユングは精神科医として、多くの統合失調症の患者を診ていたのですが、それぞれの患者が似たような幻想や妄想を話すことに気づいたのです。
統合失調症による幻想や妄想は、無意識に過剰に抑圧された欲望によって作られること、
そして無意識とは、個人の体験や経験のみによって形成されると考えられていました。
このことからも、「生い立ちや、今までの経験が全く異なる患者が、似たような幻想や妄想を話す」ということはユングに衝撃を与えました。
そしてある日、集合的無意識の存在を決定づける出来事が起こりました。
いつものように、ユングのもとに訪れた患者が、幻想や妄想などを話していたのですが、
その日の患者が話す内容は、明らかに患者個人の体験や経験に基づく発言ではありませんでした。
驚くべきことに、彼の発言はミトラ教という古代宗教の神話に出てくる話と、内容が似ていたのです。その患者はミトラ教については全く知らないはずなのに。
このような経験からユングは、「人間には人種や民族、時代を越えて同じ様なイメージを作る共通した無意識があるのではないか」と考えるようになり、
最終的に集合的無意識、個人的無意識という概念を提唱するに至りました。
1-3.ユングとフロイト「無意識」の違い
「無意識」という概念を確立したことで知られるオーストリアの精神科医フロイト。
そんなフロイトとユングの提唱した「無意識」とはどのような違いがあったのでしょうか。
その違いを一言でお伝えするならば、ユングとフロイトが異なったのは、無意識を形成するものです。
先ほどもお伝えした通り、ユングは「無意識とは個人的無意識と集合的無意識によって形成される」と提唱したのに対して、
フロイトの考えは、「無意識は個人の体験と経験によって形成される」というものでした。
ユングの言葉を借りるなら無意識は個人的無意識のみによって形成されるという内容です。
もともとユングは、「無意識」という概念を確立したフロイト著書「夢分析」に感銘を受け、フロイトとともにお互いの理論を深めていきました。
しかし無意識の考え方の相違や、人間の「欲(リビドー)」についての見解の相違により、ユングはフロイトの元を去り、別々の道を歩むことになるのです。
フロイトが提唱した無意識についてはこちらをご参照ください
→ フロイトが確立した「無意識」とは?3つの領域のについて解説
2.分析心理学(ユング心理学)とは
分析心理学とはユングが作り上げた、人の心を理解するための心理学理論であり、心理療法の理論のことです。
そんな分析心理学は、自分自身の無意識に気づくことによって「自分らしい自分になるための心理学」という側面を持ちます。
また、ユング自身が人生の前半(30、40歳くらいまで)は自分の能力を磨き、自身の立場や地位を確立し、
それ以降の人生の後半は、自分らしいあり方を模索し、人生の意味を追求する時期だと認識していたため、分析心理学を「人生後半の心理学」と表現しています。
しかし現代はユングの生きた時代と異なり、ライフスタイルや、精神の成熟度も多様化しているため、
人生の前半、後半と区分けするよりもどの年代であっても「自分らしいあり方」が、必要となりました。
この章では、分析心理学の理論のなかから、自分らしい自分になるために知っておきたいポイントをお伝えしていきます。
2-1.社会的役割を演じる仮面|ペルソナ
まず最初にご紹介するのがペルソナです。
ペルソナとは、仕事や人付き合いといった、社会、人間関係で上手く立ち回るために、無意識に演出している自分の姿のことです。
例えば、
- 本来はマイペースな性格だが、家族の期待に答えるため、真面目な自分を演じる
- 仕事では、いつもの自分と異なり厳格な人を演じる
このように、状況や社会的地位にあわせて演出している自分の姿がペルソナです。
多くの人がこのペルソナを抱えて生活をしていますが、
自分のペルソナを意識できていないと、演じわけができなくなり、演じなくてもていい時にペルソナが出てきてしまうことがあります。
また、無理して作り上げたペルソナを演じていると、ストレスを抱えたり、そのペルソナを演じなくてよくなった時、
反動で本来の自分とはかけ離れた人格になってしまうこともあります。
ペルソナとの関係がうまく行っていない場合、実は周りの人から見ると、そのことがよく分かるものです。
もし気になる部分がある場合には、あなたの周囲の方に確認することで、ペルソナを意識したり、調整できるようになります。
自分にはどんなペルソナがあるのか、ということを紐解き、「本当の自分」とペルソナの関係を理解していくことで、自分らしいあり方を目指して行けます。
2-2.感情的で複雑な心の働き|コンプレックス
2つ目のポイントがコンプレックスです。
コンプレックスとは、特定のものに対して、妙にこだわったり、極端に感情的になったりする複雑な心の働きのことを指します。
一般的に「コンプレックス」は「劣等感」と混同されますが、
分析心理学のいう「コンプレックス」は「自分が劣っている」と感じる気持ちではなく、
劣っている自分を誤魔化し、打ち消そうとして別の行動を引き起こす心の動きのことを指します。
例えば「自分の容姿」に自信がない場合、ただ自信がないと感じるだけでは「劣等感」ということですが、
自分の容姿を隠すためにあえて奇抜な格好をしたり、容姿という話題の時に冷静さに欠いた行動を取るようにさせる心の動きが「コンプレックス」ということになります。
このような「心の動き」コンプレックスとはすべての人に存在していて、
一つのコンプレックスが解消したらまた別のコンプレックスが生じてくる場合があるので、このコンプレックスを完全に無くすことは難しいです。
そのため大事なことは、自身と向き合い、自分のコンプレックスに気づき、意識化することです。
コンプレックスを意識化することができれば、コンプレックスを刺激されても感情的にならず、
- 本当は何が欲しかったのか
- 求めていたものはどうすれば実現できるのか
とコンプレックスに対して現実的に対応できるようになります。
有名なコンプレックスとしては下記が挙げられます。
父親コンプレックス |
「父親に認められたい」「父親を乗り越えたい」という気持ちから過剰にはりきったり、反抗的な態度をとってしまう。 父親以外にも上司や年長者に対してもこのような感情を抱くこともある |
母親コンプレックス |
「愛されたい」「自分のことを受け止めてほしい」という気持ちから過剰に甘えたり、受け止めてくれないと恨んだり敵意をいただいてしまう。 自分の母親以外にも年上の女性やこのような感情を抱くこともある |
救世主コンプレックス |
「自分は劣っている人間だ」「自分は優れている人間だ」という気持ちから他人を助けることで自分の存在価値を見出したり、人より優位に立とうとする。 |
カインコンプレックス |
親や上司の「愛情を独占したい」という気持ちから相手を蔑んだり、相手の成果を認められなくなってしまう。 兄弟間や同期、後輩、先輩などに対して |
2-3.抑圧してきた無意識の自分|シャドー
3つ目のポイントが影(シャドー)です。
影(シャドー)とは自身の価値体系から外れて、無意識に抑圧された自分のことを指します。
わかりやすくお伝えすると、私たちが社会に適応するために、無意識に排除してきた自分の一面です。
私たちは生活をしていると「どうしても仲良くできない人」や「なんとなく腹立たしい人」が存在します。
しかしその多くの場合は、この「影」が関係していることが多いです。
本当は「控えめでおとなしい性格」の人が、自分が所属しているグループに適応するため、
無理して明るく振る舞っていた場合、そのグループの中にいる、本来の自分のような控えめで、おとなしい人を見ると無性に苛立ちを覚えることがあります。
「社会に適応するため抑圧してきた自分」が影ということは、
自分の中で、よく思ってない、適切ではないと思っている存在が影ということ。
だからこそ他人にその要素が見えると、過剰に心が反応してしまうのです。
そのため、ありのままの自分でいるためにも、この心の反応にとらわれるのではなく、
他者の存在、自身の影の存在を認め、その影に向き合うことが重要となってきます。
2-4.人には8種類のタイプがある|タイプ論
4つ目がタイプ論です。
私たちは同じ事象、出来事を経験しても感じ方は人によって異なります。
なぜなら、心にはそれぞれタイプがあり、心のエネルギーの向き方、心の機能に個人差があるからだとユングは考えました。
そこでユングは、私たちを心のエネルギーの向き方、心の機能でタイプ分けをしました。
タイプ論を知ることで、自分の心の働きの傾向を把握することが出来ます。
2-4-1.エネルギーの向き方
まず最初にエネルギーの向き方についてご説明します。
ユングは人の心のエネルギーの向き方として「外交的」「内向的」の2種類があると提唱しました。
この心のエネルギーの向き方の違いは、下記のように性格や行動に現れます。
外交的 | 心のエネルギーが外の世界に向いていて、外の世界に興味や関心を持ちやすい。社交的、陽気、行動的という傾向がある。 |
内向的 | 心のエネルギーが自分の内面に向いていて、自分の感情や感覚から影響を受けやすい。控えめ、我慢強いという傾向がある。 |
例えば、同じ映画を見た場合、外向的な人は、映画に出てきた登場人物やストーリーに関する感想を抱きやすく、
内向的な人は映画によって動かされた自分の内面について考えることが多いとされています。
2-4-2.心の4つの機能
心のエネルギーの向き方に加えて、ユングは人の心の働きを「思考」「感情」「感覚」と「直観」の4タイプにわけました。
このタイプにはそれぞれ下記のような特徴があります。
思考 | 物事を理論的に捉えて、理屈で判断する |
感情 | 物事を快・不快、好き嫌いで判断する |
感覚 | 物事を緻密に把握する |
直観 | 物事をひらめきや思いつきで判断する |
例えば、美術館で絵を見た時にそれぞれのタイプは次のように反応をします。
思考:絵は何を伝えたいのか、その根拠は何か理論的にとらえる
感情:絵は自分が好きな絵か、それとも嫌いな絵なのか判断する
感覚:絵のタッチやどのような色が使われているかなどをそのまま感じとる
直観:絵からなにかをひらめいたり、画家の伝えたいことをパッと思いつく
また、この4つの機能は、「思考と感情」、「感覚と直観」が対になっていると考えられています。
つまり思考が優先的に働く人は、感情で判断することが少なく、感覚が優先的に働く人は、直観で判断することが少ないということです。
そして先ほど紹介した「心のエネルギーの向き方」と組み合わせると、
- 外向思考 / 内向思考
- 外向感情 / 内向感情
- 外向感覚 / 内向感覚
- 外向直観 / 内向直観
というように人の心のタイプは大きく8種類に分けられます。
ですが、実際に心の働きを分析すると、複数の心の機能や、対立にあるはずの機能が見られたりします。
ここで大切なことは、自分の心はどの機能が働きやすくて、どの機能が働きにくいかを意識することです。
それができれば、ありのままの自分の心というものを理解することもできるうようになります。
2-5.集合的無意識が現れるパターン|元型(アーキタイプ)
最後にお伝えするのが元型です。
元型とは、古代から人の深層心理に存在する、集合的無意識が現れるときのパターンのことを指します。
この元型をもとに、イメージや夢がつくられていきます。
元型の一つに母親元型(グレートマザー)というものがあります。
この元型の基本的な性質は、「包み込む」というものであり、
私たちが自然を見て安らぎを覚えたり、丸みを帯びたものに母性を感じるのは、この元型が現れるからです。
他にも父親元型というものもあり、この元型の基本的な性質は、「厳格で、教え導く」で、
神話やイメージの中で成長を促すような人物が老年男性として描かれるのはこの元型の影響だと言えます。
しかし、ユングが「全ての元型は肯定的な性質を持つと同時に否定的、もしくは中性の性質を持つ」と言うように、
元型の働き方によってはメリットもデメリットも存在します。
例えば「包み込む」という特徴の母親元型には、「子供を慈しみ育む性質」と、「子供を取り込んで離さない性質」があります。
前者が働けば、母親や年上の女性たちと良好な関係を築いていけるのですが、後者が働くと、母親だけではなく、年上の女性に反発したり、不満を感じやすくなります。
元型によって様々なイメージが作られますが、そのイメージに振り回されてしまうと、本来の自分を見失ってしまう可能性もあります。
そうならないためにも、元型と適度に距離を持ちながら、現実と向き合うことによって、自分らしく生きていけます。
※有名な元型
母親元型 | 子供を慈しみ育む性質と、子供を取り込んで離さない性質がある。 |
父親元型 | 自身を教え導いてくれたり、時として厳正な裁きをあたえる性質がある。 |
アニマ | 男性の中の女性像。男性の中にある女性的な一面はこのアニマによってもたらされる。また、男性は自身の女性像に似た人に惹かれる。 |
アニムス | 女性の中の男性像。女性の中にある男性的な一面はこのアニムスによってもたらされる。また、女性も自身の男性像に似た人に惹かれる。 |
3.無意識を変化させる心理学NLP 無意識を変化させなりたい自分へ
今回は集合的無意識、そしてユング心理学についてお伝えしてきました。
フロイトが「人の意識は氷山の一角」と表現したように、私たちの心の90%以上は無意識で占められているため、
自分らしくあろうと思っていても、日々の思考や行動は、無意識に大きな影響を受けます。
そのため、望ましくない行動や思考パターンがあったとしても、
それを変えていくためには、専門的な知識やアプローチが必要となるケースが多いのです。
2章でご紹介したものは、ユング心理学の一部にしか過ぎませんが、
ユングは自分の無意識に気づき、意識とのバランスを取れるようになると、ありのままの自分らしく生きていけると考えました。
今回ご紹介した考え方が、あなたの人生のヒントになれば幸いです。
そして分析心理学(ユング心理学)と同じように、自分の無意識や内面と向き合ったり、望ましい自分を目指して自己探求できる心理学として
「脳と心の取扱説明書」と呼ばれる、実践心理学NLPというものが存在します。
実践心理学NLPとは、セラピーの分野で「天才」と呼ばれていた3人のセラピストが使っていた言葉遣いや手法、共通点を体系化し、
誰でも、天才セラピストと同じ結果を生み出せるようにと開発された心理学でした。
今では、カウンセリングはもちろんのこと、他者とのコミュニケーションを円滑にするテクニックや、目標達成を助けるアプローチ、コーチングスキル、自己探究の手法、
そして無意識を変化させ、自分を望ましい方向に変えていくスキルが存在します。
90%以上を占める無意識を使いこなすことは、人生をより良くするために欠かせない要素です。
もしあなたが、今の自分の行動パターンや思考パターンを変えたいと感じているならば、
自分の無意識に目を向けてみてください。パターンを変えるヒントがそこにあるかもしれません。
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参考文献:
ユング心理学 (図解雑学) 福島 哲夫(著)
ユング心理学入門 河合 隼雄(著)
元型論 C.G. ユング(著)