グレゴリー・ベイトソンが亡くなる前、誰かが病気療養中の彼に
「あなたが亡くなった後、あなたの研究は誰が引き継ぐのですか?」と質問しました。
偉大な哲学者、人類学者、そしてシステム思考者であったグレゴリーは、このように答えました。
「チリのサンティアゴ出身のウンベルト・マトゥラーナという男だ。彼は私の研究を補完する、とても興味深い調査を行っている。」(ルイス、1997)
ベイトソンとマトゥラーナは共に、現代哲学者かつシステム思考者であり、学者としてのキャリアの大部分を「生命のパターン」の探究に費やしました。
両者はサイバネティクスの分野に精通しており、サイバネティクスの偉大な専門家ハインツ・フォン・フェルスターの同僚でもありました。
このハインツ・フォン・フェルスターという人物は、1950年代に開催された名高いメイシー会議の発案者であり、
この会議で重要な役割を果たしたのが、サイバネティクス開発者のノーバート・ウィーナーでした。
ベイトソンとマトゥラーナは、同じ会合などで長年に渡り何度も顔を合わせていました。
だからこそベイトソンは、人生の最期を目前にして、マトゥラーナに対する強い信頼の言葉を残したのだと思われます。
自分と同等の才覚を持つ人に、自身の天才的な研究を引き継いで継続してほしいと望むのは当然のことなのかもしれません。
神経生物学者で大学教授のウンベルト・マトゥラーナは、教え子であり同僚でもあるフランシスコ・バレーラと共に「サンティアゴ認識理論」を共同開発しました。
この二人が開発したのは、グレゴリー・ベイトソンの研究に非常によく似た、生命システムに関する理論でした。
ベイトソンの研究がすべての生命システムを関連づけようとする総合的な「メタ・パターンいたのに対して、
マトゥラーナとバレーラはすべての生命システムの中に見つけることができるパターンである、「オートポイエーシス(自己創造)」に焦点を当てました。
オートポイエーシスとは、生命システムが全体的な構造と組織を保ちながらも、どのように生命を創造し、維持し、生成するかに関係しています。
そして、システム内で起こる内部現象や、システムを構成する要素について探求する理論です。
具体的には、以下が挙げられます。
- システムを構成する要素間の関係性
- システムの構成要素を取り巻き、内包する境界
- 認知を通じて、システムからどのように情報が創出されるのか
- 外部情報がシステム全体の構造にどのような影響を与えるのか
ギリシャ語で「オート」という言葉は「自己」を意味し、自己組織化システムの自律性のことを指します。
ギリシャ語の「ポイエーレ」は、詩のように「産出する」または「創造する」ことを意味し、すべての生命システムの中に存在する継続的な創造のプロセスを指します。
したがって、オートポイエーシスは「自己創造」を意味します。
私が初めてオートポイエーシスという言葉に出会った時、この概念が人間のシステム的な本質を理解するためだけでなく、
「自己創造」のプロセスを通して、人生で望むものを引き寄せるアトラクターとなる可能性が示唆されているのではないかという期待に魅了されたことを覚えています。
オートポイエーシスが変容的変化の分野で重要とされているのは、この地球上で人間が体験することの構造と組織についてより深い理解を与えてくれるからです。
マトゥラーナによれば、生命システムの「組織」とはそのシステムのアイデンティティーを表し、「構造」とはそのシステムを構成する要素を指します。
システムは組織が保持されている限り、構造を変えてもアイデンティティーを損なうことはありません。
このオートポイエーシスの原則の一例として、16世紀のイタリアの画家ジュゼッペ・アルチンボルドの作品が挙げられます。
彼は果物、野菜、魚介類で構成された顔の肖像画を描きました。
肖像画の「組織」が顔のイメージであるのに対して、「構造」は食べ物で構成されています。
アルチンボルドがどのような食べ物や要素で顔を描こうとも、肖像画の組織やアイデンティティーは変わりません。
つまり、顔のイメージを表現している構成要素を変えると、構造だけが変化するということです。
人の人生は、その人のアイデンティティーを中心に構成されていますが、人生の構造は常に変化し続けています。
自分が誰であるかという純粋な本質は常に同じであり、変わるのは、その人の体験の構造です。
さらに言えば、構造的変化を生み出す実際のプロセスは、起こる変化と同じくらい重要です。
なぜならこのプロセスは、システムの構造を形成する構成要素同士の継続的な関係性を表しているからです。
こうした関係性の本質こそが組織のさまざまなパターンを生み出すのであり、そのパターンがシステムのアイデンティティーの構造を構成しているのです。
(マトゥラーナとバレーナ、1987年)
オートポイエティック・システムの中心的な特徴は、ウェブのような組織パターンを維持しながらも、構造的変化が常に継続していることです。
ネットワークの構成要素は絶えず互いを生み出し、変化させますが、これには2つの異なる方法があります。
1つ目は「自己再生」です。あらゆる生体は絶え間なく自己再生します。
爪は切ってもまた伸びます。
切り傷を負ってもいずれ治ります。
髪を切ってもまた伸びます。
こうした絶え間ない変化にも関わらず、人は自分の全般的なアイデンティティーや組織パターンを維持しています。
生命システムにおける構造的変化の2つ目は、新しい構造が作り出されることで生じる変化です。
つまり、オートポイエーシス・ネットワーク内の新たなつながりということです。
このタイプの変化は、環境の影響またはシステム内部の動力学(ダイナミクス)の結果として起こります。
生命システムは「構造的カップリング」を通じて環境と相互作用します。
その上、環境は構造的変化を「引き起こす」ものの、その変化を指定したり、指示したりするものではありません。(カプラ、1996年)
マトゥラーナとバレーナによると、構造的カップリングは生命システムと非生命システムが環境と相互作用する方法の違いを明確に示していると言います。
グレゴリー・ベイトソンがこれを説明するために好んで使っていた例が、石を蹴ることと犬を蹴ることの違いです。
ベイトソンいわく、石を蹴った場合、その石の重さ、質量、自分の足が石に加える圧力などを計算すれば、石がどれだけ遠くに行くかを正確に予測できます。
しかし、犬を蹴った場合は、まったく予測不可能な事態が起こります。犬がどこに行き着くのか、まったく見当をつけることもできません。
なぜなら、個々の犬によって異なる内的反応を示す場合があるからです。
逃げる犬もいれば、唸ったり、吠えたりする犬もいるかもしれません。
また、かまってもらえたと思って、尻尾を振る犬だっているかもしれません。
人生という体験は、真に内的な体験です。
マトゥラーナは「地図は領土そのものである」と述べました。
最終的に私たちが知ることができる唯一の地図、それが自分の内的体験の構造であり、それ以外はすべて知覚の幻想です。
外側で起こる出来事は、自己という境界内システムの外側で発生するものであり、それによって内的な反応が引き起こされるかもしれません。
しかし、そこにはすでに構造と組織が存在しているため、組織のこれまでの歴史と、
その知覚フィルターを通してどのような現実の表象が選択されるかによって体験が最終的に決定されたり、区別されたりします。
内的反応の構造こそが、生命システムの体験を決定するのです。
クリスティン・ハルボムなNLPトレーナーであり、著者、プロフェッショナル・コーチです。
彼女はNLPコーチング研究所の共同設立者であり、WealthyMind™プログラム(NLPマネークリニック®)の共同開発者でもあります。
このプログラムは20カ国以上の受講生に提供され、大勢の人々が自分の人生で望むものをより多く作り出せるように手助けをしてきました。
また、著書『コーチング1on1で成果を最大化する心理学NLP』(GENIUS PUBLISHING、2021年)の共著者であり、
富の意識、NLPコーチング、システム思考に関する記事を複数の心理学専門誌やその他雑誌に多数発表しています。
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NLPトレーナー クリス・ハルボム(Kris Hallbom)プロフィール
著者より許可をいただき掲載しています。
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