ロバート・ディルツ著
モチベーションは一般的に、人または生物が、行動や反応を起こすための「力、刺激、もしくは影響」と定義されています。
ウェブスター辞典によれば、モチベーションは
「生物に行動を起こさせる心理的特徴」であり、「行動の理由」です。
したがって、モチベーションは人が行動を起こすように「動かす、駆り立てる、誘発する、あるいは扇動する」内的プロセスと関連しています。
つまり、私たちを取り巻く世界で行動を起こすように刺激する「行動への呼びかけ」なのです。
私たちの行動の内的動機として一般的に挙げられるのは「ニーズ、衝動、欲望」です。
一方で、「インセンティブ、報酬、強化」は、外的要因に由来する動機づけと考えられています。
モチベーションに関する最も古い理論の一つは、古代ギリシャの哲学者アリストテレスによって提唱されました。
アリストテレスは、モチベーションが「欲求的」機能の結果であり、それは常に何らかのアウトカムや目的に対して相対的に作用すると仮定しました。
アリストテレスによれば、この「目的」は現在進行中の知覚、記憶、想像といった思考プロセスによってもたらされるもの、あるいは創造されるものであるとしています。
彼は、こう主張しました。
欲求の対象こそが行動の発端であり、この対象は真の善であることもあれば、見かけの善であることもある。
思考する魂にとって、イメージは知覚の内容であるかのような役割を果たす。
それはまるで見ているかのように、現在の状況を基にこれから起こることを計算し、熟考する。
そして、感覚と同様に、その対象が快楽であるか苦痛を伴うものであるかを判断する。
この場合、避けるか追求するかを判断する
アリストテレスの見解によれば、「真の善または見かけの善」の予想される結果や、
「現在あるものとの関連性」から派生した「これから起こること」のイメージが、
生命体にそれを追求したり(肯定的な場合)、回避したり(否定的な場合)するように促す要因となります。
ジークムント・フロイトは、モチベーションの主要なメカニズムとして「快楽原則」を提唱しました。
フロイトによれば、生物は「快楽的な体験を追求」し、「苦痛を回避」するように駆り立てられると考えられています。
この考えは、アリストテレスの「欲求」の概念を色濃く反映しています。
モチベーションに関する現代の認知理論もまた、
アリストテレスのモデルを反映しており、
モチベーションが、主にさまざまな行動の潜在的な結果に関する内的な認知マップや「期待」から派生していると仮定しています。
認知的な観点から見ると、モチベーションの主要な源泉は、自分の行動から予想されるアウトカムに関する期待だとされています。
つまり、人々の感じ方や行動は、期待される結果に付加する価値やそれに帰属する原因によって決まるということです。
例えば、強い「ポジティブ」な期待によって、ある望ましいアウトカムを得たいと願う人はさらなる努力をします。
一方で、予想される結果が「ネガティブ」に捉えられた場合、回避か無関心のどちらかに行き着きます。
苦痛と快楽に加えて、「ニーズ」と「衝動」もモチベーションと関連付けられています。
例えばシステム理論の観点によれば、
システムがバランスを保つこと、すなわちホメオスタシス(恒常性)を維持することは、生物におけるモチベーションの基本的な源泉の一つであると見なされています。
サイバネティクスによれば、
望ましい状態からの逸脱は、その状態を取り戻そうとするための是正措置を自動的に引き起こします。
例えば「食べ物を求める」行動は、ある程度の食料不足で生じた生理学的な不均衡の結果として引き起こされる、「飢え」に動機づけられます。
自己組織化理論では、「結果」、「期待」、または「ニーズ」といった要素を、ある種の安定した状態やパターンを生み出すために、
システムの残りの部分が周囲で「自己組織化」する「アトラクター(誘引子)」と見なしています。
モチベーションのモデルの中には、モチベーションを単に学習した連想や条件付けと結びつけるものがあります。
なぜなら、モチベーションが基本的に反復や外的強化によって機械的にプログラムされていると考えられているからです。
これらの学習とモチベーションに関する理論は、「反射弧」の観点を軸としています。
つまり、私たちは何らかの感覚刺激を受け取って、それに応じて反応が起こり、その後に肯定的または否定的な強化が行われるということです。
反射弧の前提に基づいた他者を動機づける試みは、多くの場合、
人々により明確な刺激を与えて、称賛、金銭的報酬、福利厚生などの適切な「強化」を提供することに焦点を当てています。
「反射弧」の観点を支持するために行われた研究の多くは、
ネズミ、鳩、犬を用いたものでしたが、
外的強化から独立したモチベーションに関する多くの現象を、説明することができませんでした。
例えばレオナルド・ダ・ヴィンチは、金銭や称賛といった外的な「報酬」を提供する明白な「反射弧」を必要とせず、自力で膨大な量のノートを作成しました。
このような高度な内的自己動機づけは、独創性と天才性を持つ作品に共通して見られるパターンの一つだとされています。
反射弧とは対照的に、学習と動機づけに関するNLP の代表的な観点は、
T.O.T.E. (Test『テスト』- Operate『操作』- Test『テスト』- Exit『退出』の略)
です。
T.O.T.E.モデル(ミラー、ギャランター、プリブラム、 1960年)は、
「欲求」が何らかの目的に向かっているというアリストテレスの概念と、自己修正フィードバック・ループというサイバネティックの概念を組み合わせたものです。
T.O.T.E.モデルでは、行動が反射弧で提唱されているような刺激主導型(決定論的)ではなく、目標駆動型(目的論的)であると主張しています。
T.O.T.E.モデルの特徴は、「テスト」によって定義された特定の条件が満たされない限り、人はその条件を満たそうと「操作」し続けるという、
目標志向型フィードバック・ループの基本要素を明確に表しています。
したがって、「モチベーション」は達成すべきアウトカムや条件であり、外的強化ではありません。「意欲」、「勢い」、「外的強化」などといった説明も必要ありません。
自然な自己修正は、健全な生活あるいは自己組織化システムに不可欠な要素なのです。
T.O.T.E.モデルを基に始まったモチベーションに対するNLPの考え方は、その後もモチベーションに関する、他のさまざまな視点をある程度取り入れてきました。
NLPは、私たちのメンタル・プログラミングにおいてその他の側面にも影響を与えます。
例えばNLPによると、ある対象物や行動結果の内部表象(色、明るさ、距離など)における特性(サブモダリティ)は、
私たちがそれを「肯定的」、「楽しい」、「望ましい」と認識するか、
あるいは「否定的」、「苦痛」、「恐ろしい」と認識するかに影響を与えるとされています。
したがって、あるアウトカムや期待される結果に対する私たちの内部表象のサブモダリティの質を調整することで、
その魅力の度合いが変わり、結果として私たちが体感するモチベーションの強さも変わるのです。
NLP におけるモチベーションのもう一つの重要な側面は、メタプログラム・パターンに関係しています。
メタプログラムの特徴は、T.O.T.E.モデルに関連する高次のパターンにあります。
具体的には、目標の設定と評価の方法、そして目標を達成しようとする際の作戦と対応の選択方法です。
例えば、T.O.T.E.モデルにおける目標または「テスト」段階では、人が達成したい状態、または避けたい状態のいずれかを表すように設定することができます。
目標とする状態は、ビジョン、論理的構成、行動、または感情的な状態のいずれかで表すことができ、過去の記憶や未来の可能性を投影した構成から得られることもあります。
また、現在進行中の状態を維持しようとする試みである場合もあります。目標とその達成は、長期的か短期的か、などといった観点で考えることができます。
メタプログラムのパターンは、
人が「ポジティブに近づく」タイプか「ネガティブを避ける」タイプかを区別してから、人を最も行動に向かわせる可能性が高いのはどのような結果であるかを決定します。
同様に、その人のアウトカムが
長期的な未来と即時の現在のどちらに関連して表現されるか、
または一般論志向と詳細志向のどちらであるのかに関するパターンも、
その人を最もやる気にさせる可能性の高い状況や「強化」のタイプに大きな影響を与えるでしょう。
NLPは、メタプログラムとモチベーションの両方が、最終的には価値観とビリーフに駆り立てられると別の視点で捉えています。
つまり、私たちがなぜそのように考え、行動するのかというプロセスの側面に関連しています。
価値観とビリーフは、個人がある状況に対してどのように「句読点」を打ち、それに「意味」を与えるかを形作ります。
その結果、その人がどのようなメンタルプログラムや行動を選択してその状況に臨むかが決まります。
このように、私たちのビリーフや価値観は、特定の能力や行動を支えたり抑制したりする内的な強化要因となります。そのため、これらは動機づけに重要な影響を与えるのです。
例えば、人の「価値観」や「価値基準」の「階層」は、その人が世界でどのように行動するかに大きく影響します。
価値観の階層は、人々がさまざまな行動や経験に対して付与する重要性や意味の度合いと関連しています(これらはいわゆる「階層化された T.O.T.E.s」と呼ばれる連なりを形成します)。
「価値観の階層」の例として、「達成」よりも「人間関係」を重視する人が挙げられます。このような人は、自分の人間関係を「第一」に考える傾向があります。
そして、タスクやアウトカムの達成よりも、良好な人間関係を維持することを中心に自分の生活を構築すると考えられています。
一方で、「目標達成」を「人間関係」よりも優先する価値観の階層にいる人は、一貫して異なる優先順位に従って行動するでしょう。
このような人は、成功を得るために人間関係を犠牲にする場合があります。
NLPでは実践レベルで、これらのさまざまなモチベーション要因を組み合わせて、ある目標やアウトカムを効果的に目指すための具体的なモチベーション戦略を特定し、創造します。
そしてこのモチベーション戦略は、人々が自分をより効果的に鼓舞し、目標に向かって進むのに役立ちます。
モチベーション・ストラテジー
モチベーション戦略は、NLPによって特定された基本的な7つの戦略の一つです。
他には、「 記憶」、「学習」、「創造性」、「決断」、「現実」「ビリーフ(または確信させるもの)」が含まれます。
モチベーション戦略は、自分が望むものを手に入れるために必要な全ての行動を自発的に行うように、人々が体験する一連の認知的な手順と操作に関連しています。
モチベーション戦略は、ニュー・ビヘイビアー・ジェネレーター(新しい行動の発想法)やフューチャー・ペーシングといったメンタルリハーサルを含むプロセスと類似していますが、重要な部分で違いがあります。
メンタルリハーサルとモチベーション戦略は、どちらも想像力と視覚化を活用します。
しかし、メンタルリハーサルの主な目的は、将来の特定の状況に対して自分が望むように反応したり、行動したりする準備を想像の中で行うことです。
一方で、モチベーション戦略は夢や目標、あるいはアウトカムに向かって自分を刺激したり、前進させたりする方法です。
例えば、メンタ ルリハーサルを行うためには、そもそもモチベーションが必要とされることがあります。
数多くの人が自分自身や他者の意欲を引き出す過程で、課題を感じることがあります。
こうしたことが多く起こる理由として、アリストテレスは次のように指摘しました。
欲求は互いに相反することがある。これは理性の原理と欲望が相反するときに起こるもので、時間感覚を持つ存在にのみ可能なことである。
なぜなら、マインドは未来のことを考慮して我々を抑制する一方で、欲望は手元にあるものに影響されるからだ。
言い換えれば、手元にある楽しいものは、遠くにあるものに対して見通しが欠落しているため、
いかなる場合にも無条件に楽しくて良いものであると感じられるのである。
NLPがこのような短期的な結果と長期的な結果の矛盾に対処するための方法の一つは、タイムラインと「アズ・イフ」フレームの活用を通じて「時間的に遠いものを予見する」ことです。
これには視覚化の活用と、未来と関連付けられた体験の創造が含まれます。
モチベーション戦略はポジティブな期待を作り出すだけでなく、人々が自分自身の内なるモチベーションの源を引き出し、その方向づけを助ける手法でもあります。
モチベーション戦略は通常、重要な価値観や 「価値基準 」に基づいて形成されます。
自分の価値観や価値基準を把握するために、以下の質問について少し考えてみると良いでしょう。
「概して、あなたを動かすものは何ですか?」
「何があなたを奮い立たせますか?」
「何があなたを行動に移させ、朝起きる原動力となっていますか?」
考えられる答えとして、次のようなものがあります。
- 成功 |
- 称賛 |
- 承認 |
- 愛と受容 |
- 自分が手に入れたいもの (家、教育、痩せた体、仕事、大義)に照準を合わせる |
- 世界に変化をもたらす |
これらはすべて、人々のモチベーション戦略の基盤を形成する「価値基準」や「価値観」の例です。
もちろん、次にくる重要な質問は、「ある行動や結果が特定の価値基準や価値観に合致するかどうかを、どのように判断するのか?」でしょう。
NLPではこれらの条件を「クライテリアの等価」または「証拠」と呼びます。
これらは通常、価値基準や価値観そのものよりもはるかに感覚的なものであり、さまざまな体験の感覚的な特性に影響を受けることがあります。
あなたの感覚的な知覚が、モチベーションの程度にどのような影響を与えるかを考えてみましょう。
例えばテレビで流れる広告で、その商品を手に入れたくなるようなものを思い浮かべてください。
その広告のどのような要因が、商品を購入したくなる気にさせたのでしょうか?
色、明るさ、音楽、言葉、声のトーン、動きなどでしょうか。
これらの具体的な特徴は、NLPでは「サブモダリティ」と呼ばれ、人々のモチベーション戦略において重要な役割を果たすことがよくあります。
参考文献
「Parable of the Porpoise」(1992年)- ロバート・ディルツ著
「Strategies of Genius、第1巻」(1994年)- ロバート・ディルツ著
著者より許可をいただき掲載しています。
http://www.nlpu.com/Articles/artic17.htm
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