2024/7/8

「反例」によって導き出す!価値基準の階層

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ロバート・ディルツ著

「価値基準(クライテリア)」とは、人が何かを決断し、判断する時に使っている価値観や基準のことです。

価値基準を意味する英語のCriteria(クライテリア)は、ギリシャ語で「判断」を意味する“krites”に由来しています。

価値基準は、私たちが求める望ましい状態の種類を定義し、形づくります。

そして、その望ましい状態が得られているか、望ましい状態に向かって進んでいるのかを判断するための証拠を決定します。

例えば、「安定性」という価値基準を商品、組織、あるいは家族に当てはめると、ある一定の判断と結論が導き出されます。

一方で、「適応能力」という価値基準を当てはめると、同じ商品、組織や家族であっても、異なる判断と結論が導き出されるかもしれません。

価値基準(クライテリア)と価値観(バリュー)は関連づけられることが多いですが、この二つは同義語ではありません。

価値基準は、複数の異なる体験のレベルのどれにでも当てはめることができます。

例えば、環境に対する価値基準、行動の価値基準、そして知的(価値)基準もあれば、感情に基づく価値基準もあります。

一方で価値観は、ビリーフ(信念)と同じロジカルレベル(論理階層)にあります。

このような観点から、価値観はNLPでいうところの「コア・クライテリア(中核的な価値基準)」に類似すると言えます。

実際、多くの人が似た価値観(例えば「成功」、「調和」、「尊重」)を共有していたとしても、それらの価値基準が満たされているか、侵害されているかを判断するための証拠の形は人によって大きく異なります。

これが人々の間で対立か、あるいは創造性を生み出すのです。

人にはそれぞれ異なる価値基準があるのだと認識することは、対立の解消や多様性の管理に不可欠です。

異なる文化間の接触、組織間の統合、個人の人生における転機では、価値基準、価値基準の階層、そして価値基準の等価に関わる問題がよく起こります。

仲介、交渉、そしてコミュニケーションを成功させるためにも、相手の価値基準を理解することは大切です。

価値基準はまた、説得や動機づけにおいても大事な役割を果たします。

そして、価値基準の特定と活用は、多くのNLPテクニックとプロセスにおいても、重要な要素となっています。

「クライテリアの階層」テクニックや「スライト・オブ・マウス」の数多くのパターンの土台となるものであり、

ほぼすべての「NLP葛藤の解消」フォーマットの重要な部分を占めています。

また、目標の達成と進捗状況の評価に対する価値基準を設けることは、計画作成と意思決定において必要不可欠です。

NLPで使われる価値観の等価という言葉は、特定の価値基準が満たされているかどうかを定義する、具体的で目に見える証拠を表します。

価値基準が満たせているかどうかを評価する上で、人が用いる表象システム、詳細のレベル、そして知覚位置は、個人によって異なります。

目次

    クライテリアの階層

    人のクライテリアの階層とは、基本的に、その人がこの世の中で行動する際に適用している優先順位のことです。

    クライテリアの階層は、人がさまざまな行動や体験に紐付ける重要度、あるいは意味付けに関連しています。

    クライテリアの階層の例として、「経済的な成功」よりも「健康」を大切にしている人がいるとします。

    この人は自分の健康を「第一」に考える傾向があるでしょう。

    そのため、おそらく仕事の機会よりも、運動を中心とした生活を送っているかもしれません。

    一方で、クライテリアの階層において「健康」よりも「経済的な成功」が上位に来る人は、異なるライフスタイルを送っているはずです。

    彼らは経済的な勝ち組になるために、健康や身体的なウェルビーイングを犠牲にするかもしれません。

    人のクライテリアの階層を引き出す主な方法の一つは、反例と呼ばれるものを見つける方法です。

    反例とは要するに、「ルールへの例外」です。

    次の質問は、人のクライテリアの階層を明らかにするために反例を見つけるプロセスが含まれています。

    できるのに、やっていないことは何ですか?それはなぜですか?

    例:「私は、異性用と表示されているトイレには入りません。なぜなら、ルールに反することだからです。」

    価値基準=ルールに従う
    それでもあなたがそれをやるのは、何があった時ですか?(反例)

    例:「私が異性用と表示されているトイレに入るとしたら、それは、他に選択肢がなく、どうしても行かなくてはならない時です。」

    さらに高い価値基準=緊急時の便宜

    この例が示すように、反例を特定することで他よりも優位な高い順位の価値基準を明らかにすることができます。

    反例を探求することによって、自分の価値基準の階層を把握するためには、以下の質問に答えてみてください。

    1. 新しい何かを試してみようと、あなたを動機づけるものは何ですか?
    2. 質問1の答えを満たしていたとしても、あなたにその何かをやめさせる要因は何ですか?(反例A)
    3. 質問2で挙げた理由でその何かをやめたとしても、それをあなたに再開させるものは何ですか?(反例B)
    4. それを再びやめさせる要因があるとしたら、それは何ですか?(反例C)

    自分の回答を振り返ってみて、どのような価値基準が出てきたのか、そしてどのような優先順位だったかに気づきましょう。

    もしかしたら、創造的なこと、ワクワクすること、楽しいと感じることに取り組もうと思ったかもしれません。

    その場合、これらがあなたの第一レベルの価値基準になります。

    しかし、創造的で、ワクワクする、楽しいことでも、家族に対して「無責任」だと感じたらやめるのかもしれません(反例A)。

    この場合、「責任」という価値基準が「創造的」や「楽しさ」よりも優位にあるということです。

    しかしながら、「無責任」だと感じたことでも、「人として成長するために必要」と感じるなら、結局やってしまうかもしれません(反例B)。

    つまり、「責任」や「楽しさ」よりも、「成長」が価値基準の階層の上位にあるということです。

    さらに深掘りしていくと、「人として成長するために必要」なことも、「自分と家族の安全が脅かされる」と思ったら、やめてしまうかもしれません(反例C)。

    したがって、価値基準の階段において、「安全」が他よりも上位にあるということです。

    補足として、反例(からクライテリアの階層)を特定するもう一つの方法は、次のような質問をすることです。

    1. 新しい何かを試してみようと、あなたを動機づけるものは何ですか?
      例:「安全で簡単なら。」
    2. 質問1への答えを満たしていなくても(つまり、安全でも簡単でもない)、
      それでも新しいことを試してみようとあなたを動機づけるものは何ですか?
      例:「それを実践することで、多くの学びが得られるなら。」

    価値基準の階層は、人、集団、文化間の違いを生み出す主な要因の一つです。

    一方で、似たような価値基準の階層は、集団や個人間における相互理解の基礎ともなります。

    また、価値基準の階層は、動機づけやマーケティングにおける重要な側面でもあります。

    例えば、顧客がビールを購入する際の価値基準の階層を特定するために、反例を見つけるプロセスを用いた、次の仮説的事例について考えてみましょう。

    Q:あなたは普段、どのようなビールを買いますか?

    A:そうですね。
    普段はXYZビールを買っています。

    Q:なぜXYZビールなのですか?

    A:いつも買っているビールなので。
    買い慣れているのだと思います。
    (価値基準その1=馴染み)

    Q:馴染みがあるものを買うことは重要ですよ。今まで他のビールを買ったことはありますか?(反例の特定)

    A:もちろん。
    そういう時もありますよ。

    Q:買い慣れていないにも関わらず、それを買おうとあなたに思わせたのは何ですか?
    (反例に紐付く、高次の価値基準を引き出す)

    A:セールだったんです。
    通常価格から大幅に値引きされていました。
    (価値基準その2=お金の節約)

    Q:お金の節約は時に役に立ちますよね。
    ふと疑問に思ったのですが、買い慣れていないビールをセールではない時に買ったことはありますか?(次の反例の特定)

    A:あります。
    新居への引っ越しを手伝ってくれた何人かの友人に、お返しとして買いました。
    (価値基準その3=他者に感謝の気持ちを示す)

    Q:良い友人と巡り会うのは、難しいことだと思います。
    彼らに感謝の気持ちを示すのは良いことですね。
    買い慣れない、値下げもされていない、お世話になった誰かにお返しをする必要もないのに、ビールを買いたいとあなたに思わせたことは、他にもありますか?(次の反例を特定する)

    A:もちろん、ありますよ。職場の仲間と出かけた時に、もっと高いビールを買ったことがあります。
    私はケチではないので。(価値基準その4=他者への好印象)

    Q:なるほど。
    購入するビールによって、自分の優先順位がわかるような場面もあると思います。
    お返しをしたい人や主張したい人もいないけれど、いつもより高くて、買い慣れていないビールを買うとしたら、何があなたをそうさせますか?
    ぜひ知りたいです。(次の反例を特定する)

    A:何か難しいことをやり遂げた自分に対して、心からご褒美をあげたいと思ったらそうするかもしれません。(価値基準その5=自分への褒美)

    この人物が大多数の潜在的なビール購入者の代表的な存在だと仮定すると、インタビューアーは、

    馴染みのない高価なビールを普段は購入する可能性の低い人たちに売るために、アピールすべき特定の価値基準の階層を明らかにしたと言えます。

    反例を特定することで価値基準の階層を引き出すこのプロセスは、効果的な説得においても役立ちます。

    こうした質問に答えてもらうことで、習慣的な考え方から相手を抜け出させることができ、自分の価値観の順序について知ってもらうことができます。

    その情報は、慣れっこになってしまった境界線を迂回するために使うことができます。

    例として、自分には女性にアピールできることがないと思い込み、女性との出会いに二の足を踏んでいた男性たちのグループに、この質問方法を紹介したことがあります。

    彼らには、外に出て女性にインタビューをしてくるように指示しました。

    そして女性の価値観を特定する方法を学び、自分たちには社会的な選択肢がもっとあることを知ってもらうためでした。

    以下は、そのインタビューの一例です。

    男性:どのような男性と最も付き合いたいと思いますか?

    女性:もちろん、お金持ちでハンサムな人です。

    男性:これまで、特にお金持ちでもハンサムでもない人と付き合ったことはありますか?

    女性:あります。
    非常にユーモアのある人と付き合ったことがあります。
    彼はどのようなことでも私を笑わせてくれました。

    男性:付き合う相手は、お金持ちやハンサムな人、面白い人ばかりですか。
    それとも、他のタイプの人と付き合おうと考えたことはありますか?

    女性:もちろん、ありますよ。
    とても知的な人と付き合ったことがあります。
    彼は、何でも知っているようでした。

    男性:お金持ちでもなく、ハンサムでもなく、面白い人でもなく、非常に知的という印象を残さなくても、その人と付き合いたいとあなたに思わせるのは何ですか?

    女性:ものすごく素敵だと思った男性がいたのですが、彼はそういった要素を一切持っていませんでした。

       しかし彼は、自分が人生で目指すべき方向を知っていて、そこにたどり着く決意を持っているような人でした。

    男性:お金持ちでもなく、ハンサムでもなく、面白さや知的な印象もなく、決意もない人と付き合ったことはありますか?

    女性:ありません。
    私が覚えている限りでは、ありません。

    男性:そのような男性と付き合いたいとあなたを動機づけるものは、他にも思いつきますか?

    女性:そうですね。
    相手がユニークなことだったりとか、エキサイティングなことをしていたりとか、
    そういうことに携わっているのであれば、興味が湧くかもしれません。

    男性:他には何かありますか?

    女性:私のことを心から気にかけてくれたり、人として自分自身と向き合う手助けをしてくれたり、
    あるいは、私の何か特別な部分を引き出してくれるなら。

    男性:相手が自分のことを心から気にかけてくれていると、どのようにしてわかりますか?

    この対話では、いくつかの簡単な質問を使うことによって、表層レベルのビリーフから深いビリーフと価値観に到達できることを示し、

    人の選択肢と柔軟性を広げられることを示しています。

    人にはそれぞれ異なる価値基準(そして価値基準の階層)があるのだと認識することは、対立の解消や多様性の管理に不可欠です。

    異なる文化間の接触、組織間の統合、個人の人生における転機では、価値基準、価値基準の階層、そして価値基準の等価に関わる問題がよく起こります。

    個人や文化によっては、「人間関係の維持」よりも「タスクの達成」を重要視します。

    それとは全く逆の優先順位を持つ個人や文化もあります。

    管理職、教師、コーチやセラピストとして成功するためには、異なる価値基準の階層を特定し、それに対処できるツールや戦略を持つことが重要です。

    参考文献

    Beliefs: Pathways to Health and Well-Being; Dilts, R., Hallbom, T. and Smith, S., 1990.

    【邦訳】ロバート・ディルツ、ティム・ハルボム、スージー・スミス『信じるチカラの、信じられない健康効果』横井勝美 (翻訳)、出版社: ヴォイス 2015年

    Changing Belief Systems with NLP; Dilts, R., 1990.

    Overcoming Resistance to Persuasion with NLP; Dilts, R., and Yeager, J., 1992.

    Visionary Leadership Skills; Dilts, R., 1996.

    ロバート・ディルツ氏より許可をいただき掲載しています。
    http://www.nlpu.com/Articles/artic15.htm
    This page, and all contents, are Copyright © 1998 by Robert Dilts., Santa Cruz, CA.

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